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女神の見えざる手のsryuichiのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.0
監督/ジョン・マッデン
脚本/ジョナサン・ペレラ

銃社会アメリカの中枢部ワシントン。敏腕ロビイスト、エリザベス・スローン(ジェシカ・チャスティン)が銃規制強化法案を通そうとあらゆる手段で闘う政治ドラマ。

【ゼロ・ダーク・チャスティン 理想の代償】
ジェシカ・チャスティンの優しくソフトな声は映画『ヘルプ』にぴったりだった。明るくどこかネジの取れた不思議ちゃんキャラは好感度MAXのハマリ役だった。

そこから一転『ゼロ・ダーク・サーティ』ではビン・ラディンを地獄まで追い詰めるCIA局員に変貌。容疑者暗殺作戦は成功するも言葉にし難い虚しさが残る傑作を担った。

そして近作ではオスカー・アイザックと夫婦を演じた『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』。最も暴力事件が多発したと言われる1981年のニューヨーク。チャスティンは夫の事業を成功に導くためなら手段を選ばない妻を怪演した。

この『アメリカン・ドリーマー』は2012年のサンディフック小学校銃乱射事件に着想をえて作られている。事件当時、多くの小学校では武装した警備員を至る所に配置した。銃には銃で、という訳だ。学校は戦闘地帯さながらになった。この対処にチャンダー監督が違和感を持ったのが映画の始まりだった。

『アメリカン・ドリーマー』の原題は『A Most Violent Year』。現在2017年。銃乱射…警官による黒人射殺…大小様々なテロ…最近は毎年がViolent Yearだ。

暴力が暴力を生む負のスパイラルを体現してきたチャスティン。本作はまさに彼女のための映画になった。そしてもう一人。反暴力を掲げてきた音楽家が参戦している。

【ブッシュを叩いた男、マックス・リヒター】
音楽担当はドイツ生まれ英国仕込みの作曲家マックス・リヒター。映画音楽では『戦場でワルツを』『少女は自転車に乗って』など。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』では挿入曲「On the Nature of Daylight」が印象的に引用されている。これはイラク戦争への抗議として2004年に出したアルバムの一曲だ。リヒターは当時、数々の争いと暴力に対する怒りをこのアルバムにぶつけたのだった。

イラク戦争は終わっても暴力は終わらない。リヒターは再び警鐘を鳴らす。女神の見えざる手に導かれて。

【小学校教師の見えざる手】
この映画では銃社会をテーマの中心に据えながらも実際にドンパチ劇場が展開する事はない。むしろ政界の裏を舞台にした詐欺モノに近い。専門用語が矢継ぎ早に飛び交い、捻った例えや二手三手先を読む台詞が応酬される、洗練された会話劇だ。更に主人公スローンの過去や心の中に立ち入る隙が殆どない。

この作風に近いのは大御所アーロン・ソーキンだ。彼の脚本には『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』『スティーブ・ジョブズ』がある。どの作品でも癖の強い登場人物たちが機関銃のごとく言葉を捲くし立て、観終わる頃には膨大な情報量に頭がパンパンになる。

驚く事に『女神~』の脚本を手掛けたのは小学校教師だ。しかも脚本は独学。更にこれが初めての脚本だという、とんでもないシンデレラ・マンだ。

内容の大部分はリサーチと元弁護士の経験によるものだと語っているが、スローンの人物像は母親を反映しているらしい。彼女は共産主義下のチェコスロバキアで育ち、若い頃に英国へ飛び出した。
気丈な生き方は必然だった。それはスローンも同じ。自由の国のど真ん中と共産主義国、同じ生き様を強いられるとは興味深い…

別のキャラクターでは銃規制賛成派の男をマーク・ストロングが演じている。スローンが盗聴作戦を提示すると「それはやり過ぎだ!」と反対するが『キングスマン』の彼を知っている観客からすれば「お前が言うな!」である。作品変われば盗聴盗撮やりたい放題のくせに。

銃規制、フェミニズム、ロビイスト。現在進行中の論争に真っ向からメスを入れつつ騙し騙される快感が堪らない。

チャスティンの新たな快作『女神の見えざる手』でした!

#filmarks