Masato

女神の見えざる手のMasatoのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.7

彼女は"その先"を読む

10月1日にラスベガスで起きた米国史上最悪の銃乱射事件はまだ記憶に新しい。この日に日本で公開されたことは運命さえ感じられる。

ロビイストのスローンが銃規制強化派に参加し、銃規制反対派と票集めの戦いを繰り広げる政治ドラマ。

傑作です。票集めの戦いと聞くと堅苦しい感じがしますが、誰にでも楽しめます。セリフがマシンガンのように連射されて互いに撃ち合い、互いに戦略を仕掛け合う知略・頭脳戦です。全くもって飽きません。むしろ段々興奮してきて席から立ち上がりたくなります。

まず、この映画の情報量は半端ではありません。シンゴジラのように早口言葉がバンバン出てきて字幕に追いつくのに必死です。それが功を奏してか、映画のテンポが失速することを知らないと思えるくらいに良い。

法律素人&アメリカに住んでいないが故、専門用語や
アメリカの詳しい制度などは分かりませんが、重要な部分はある程度教えてくれるので、困ることはありません。この映画の軸となる部分は議員を銃規制強化派に回らせることなので、さほど難しくはありません。(ただ、今のアメリカ銃社会については多少知っておくべきかも)

主人公がものすごいスピードで毒を吐く。未知数のカリスマ性を感じられる。言葉と戦略に見事まくしたてられて支配されてしまう。
全編にわたって主人公の腹の中が見えない。かえってそれに興味をそそられつつあるも、どこか一抹の恐怖も感じる。それは、毒を吐いてるところがトランプに似てるからだ。

ただし、トランプと全く異なるところは信念があることだ。一見勝ちにこだわる人間のように思えるが、その裏には変えがたい「自分」というものが存在する。
そこで見えてくるのは、今の政治家は信念を持っているのか?ということだ。自分のキャリアを守るため?お金のため?そのためには自分を欺くのか?
この世界に必要とされている政治家は犠牲を払っても変わらない「信念」がある人なんだと教えてくれる。

銃規制についての現状も教えてくれる。銃乱射事件が多発しているのにも関わらず、銃規制がいっこうに強化されない要因は3つ存在する。NRA(全米ライフル協会)の力と資金源の凄まじさ、そのNRAが国民に銃を持てなくなるぞと不安を与えていることと、憲法修正第2条の違憲となることを突かれているの3つが大きな要因である。
憲法修正第2条は200年くらい変わっておらず、もう当時のアメリカとはかけ離れているのに修正されないのは、恐らく銃規制反対の口実になるからであろう。そこにはNRAがバックにいると憶測だが感じる。(実際はアメリカ建国の意に反するかららしいが)
この映画にも現実世界の実情がよく出てきている。今のアメリカの社会問題を楽しく見つめることができる。

ジェシカチャスティンは相変わらず40歳なのに美人で、演技力が半端ではない。セリフ1つ1つに重みと攻撃性があった。
ゴールデングローブでノミネートはされたがオスカーまではいかなかった模様。オスカー獲るだけの力量は十分にある。
ジェシカチャスティンはアーロン・ソーキン監督の「Molly's Game」でまたもや早口言葉を披露するらしいので、注目したい。今度はオスカー候補になりそうとの情報。

今週は美しい40歳女優が主演の映画が2つ同時に公開された。偶然なのか。

映画的にも政治的にも全てが素晴らしい映画です。必見。

p.s.本作の作曲家がOn the Nature of Daylightのマックスリヒターだった
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