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女神の見えざる手のneroのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.5
なんという情報量の多さ! ダイアローグの量と速度が半端ないし、展開も超っぱやで、ネイティブでもついていくのが大変そうなのに、文字数の限られる字幕でこの表現力! 松浦美奈さんの超絶翻訳全開、これは労作だ。

予告では銃規制をめぐる女性ロビイストのストーリーという印象だった。例のラスベガス乱射事件の直後だけに、マイケル・ムーアとは異なるアプローチの社会派映画かと思っていたが、意外なほど一人の女性の魂のドラマだった。(制作は2016年、今年だったらシナリオリテイクになってたかも)

米国のロビイングを主戦場に、ダークヒロインにも見えるハイパーロビイスト・リズが、表に裏に、仕掛け、仕掛けられ、最後の切り札で状況をひっくり返す、緊迫したポリティカルパワーゲーム。
時制も場面も目まぐるしく転換するのに、練り込まれたシナリオの密度感が観客のテンションを途切れさせない。132分があっという間。政界が舞台ながら見事なほどにイデオロギーを排しており、プロのロビイストの凄さに圧倒される。
ロビイストって、なんとなく電通みたいなエージェンシーやコンサル会社の政治系専門なやつみたいなもんかと思ったら、CIAあたりとやってること変わらんね。交渉じゃなく謀略だこりゃ。

中盤スタッフが襲われる切迫シーンが転回点となって、リズの内面を垣間見せる。彼女のモチベーションは、経済的成功にも自身のキャリアにもなく、もっと根源的な冥さを感じさせるんだが、そこは明示されない。議会・議員そして政治あるいはアメリカそのものに対する絶望あるいは憎悪があるのか、ソレをねじ伏せることそのものが彼女の人生の目的なようにも感じる。

原題は非常にそっけない。一方邦題は、アダム・スミスの言う「神の見えざる手」からの連想なのだろうが、これは如何なものか? 市場経済など関わらないこのドラマの何処に「神」が干渉する余地があるのか? 「ミス・スローン」=「女神」でもないし、彼女はむしろ神を否定しているのでは・・・。このタイトルは的外れだと思うね。

エスコートサービス(出張ホスト)の兄ちゃん、いいヤツだったねえ。彼が偽証で収監されないことを願う。
矯正施設から出所したリズの視線の先にいたのは誰なのだろうね? まさか彼じゃなかろうし、誰であっても納得出来るんだが、気になるよ。
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