こーた

女神の見えざる手のこーたのレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
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ロビイスト。縁の下の力持ち。
政治にはお膳立てがいる。
政治家の関心は、正義や信条、ましてや国民などには向いていなくて、いつだってカネと票にある。それはいつの時代も、どこの国でも変わらない。
だからロビイストがいる。かれらがカネをかき集め、票を確保して政治家の関心を社会の問題へ向けさせる。そのお膳立てが議論をよび、民主主義を動かしていく。

ロビイストは予測する。
敵はもちろんのこと、味方にも真の手の内は明かさず、その巧緻な戦略は観客にまでおよんで、もろともに欺く。
スローン(ジェシカ・チャステイン)が仕掛ける罠の毒が、銃ロビー(gun lobby)の強固な壁を突き破って、米国民主主義を蝕む寄生虫どもまでやっつける。なんとも痛快ではないか。

この映画の凄みは、民主主義とはなにか、といった命題や、あるいは憲法といういまホットな話題を、実に見事なエンターテインメントへ昇華している、ということにつきる。
米国人は、先人が知恵をしぼって建設した憲法(Constitution)というものを、何よりも尊重している。
銃規制というテーマを掘り下げていくと、憲法という建国の土台に突き当たる。その土台の上に築かれた法をいじるには、徹底的な議論が必要だし、その議論の根底には憲法がある。
翻ってわが国の現状を振り返ってみると、じつに羨ましいかぎりである。

トム・クルーズ、Jerry Maguire、『ザ・エージェント』。
ジョージ・クルーニー、Michael Clayton、『フィクサー』。
ジェシカ・チャステイン、Miss Sloane、とくれば、邦題は「ロビイスト」、あるいは「ミス・ロビイスト」でよかったのではないか。
それでは売れない、という声が聞こえてきそうだが、そもそも上映館が少ないし、口コミのわりに大手メディアの扱いは小さく、温度は極めて低いように感じる。つまり、あまり売る熱意を感じない、ということだ。
憲法や民主主義はもとより、過重労働や睡眠障害といったテーマも含んだこの映画は、いまこの国が抱えている社会問題に、これでもかというほどマッチしていると思うのだが。あるいはそのことが逆にこの映画のPRを妨げているのだろうか。
先が気になる!という展開が10分に一回は襲ってきて、まるで連続ドラマ1クール分を2時間にぎゅっと圧縮したような脚本は、見事というほかない。
これほど洗練された社会派サスペンスは稀有だ。ことし観た映画のなかで(いまのところ)ベストにあげてもいい。
この映画のキャンペーンに、ミス・スローンを雇いたいくらいである。