ベルサイユ製麺

女神の見えざる手のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.0
タイトルから、透明痴女によるパニックエロコメを期待、いや危惧しましたが全然違かった…。頭脳派サスペンス・エンターテイメント!そして、理想の“闘う女性”映画!聞きしに勝る面白さですよ!!

エリザベス・スローンは超凄腕のロビイスト。ロビイストとは…『禁断の惑星』のロボットのモノマネ芸でショーパブに出る芸人の事、ではなくて、“圧力団体の利益を政治に反映させるために、政党・議員・官僚などに働きかけることを専門とする人々。米国議会のロビーなどで議員と話し合うという慣行からできた語。”(←デジタル大辞泉より)
違法スレスレの際どい手法と誰よりも先を読み通す明晰な頭脳で大手ロビー会社のトップに君臨するスローン。その常勝っぷりに目をつけた銃器所持擁護派団体から“銃規制法案の棄却”の為のロビー活動のオファーを受けるが、コレを嘲笑い一蹴。返す刀で同調する仲間を連れ退社、そのまま銃規制法案を進める弱小会社に合流します。資金、人脈の圧倒的な差。一見無謀としか思えないスローンの戦いに勝算はあるのか?彼女の切り札は⁇

あー、もう凄く面白い。テーマ取りのラジカルさも好みです。社会派の様な雰囲気だけ醸しつつ、実は全く実社会を反映出来てない作品って結構多い気がするのですけど、今作はバッチリ。この作品が好きでは無いアメリカ人にはその理由を聞いてみたい。庭に国旗がたなびいていね。
反面、描かれている問題のリアルさから、作品の中でだけ溜飲を下げてる場合じゃないよなとも思います。我々が完全に無関係とは言えませんよね。あんなバカバカ武器買わされてヘラヘラしてるバカを選んじゃってんだから。
ところでわたくし、ロビイストっててっきり特定の志向を持つ団体に、元々専属している個人なのだとばかり思っていたのですが、そういう訳ではないのですね…。バカは自分か。
どちらかと言えば弁護士に近い業態で、となるとオファー次第で社会にとって善とも悪ともなり得る存在。その事を踏まえて彼女の決断を考えるとその重さに、ラストの苦さも増してきます。
主人公スローン役、ジェシカ・チャステインが素晴らしい。頭脳明晰、冷静冷徹に見えながら複数の薬でギリギリバランスを取るという危うい人物を見事に演じています。完全に騙された。
シュミット役、マーク・ストロング、好き。ただただ好き。メタなスパイネタ笑いました。

過剰過ぎない演出、編集も、小気味好い脚本もとにかく快適。シン・ゴジラばりの専門用語飛び交う会話の、何がブラフで何が伏線なのか?更に陽動作戦、陽動作戦の為の陽動作戦が張り巡らされ、スローンの真意を探っているうちにすっかり罠にはまってしまいます。頭がクタクタ…。ここまで見事なら後出しジャンケン、大いに結構!最高です!!

…とべた褒めテンションなのですが、実はこの作品、観るまでだいぶ時間がかかってしまいました。皆様の高評価のレビューなどは目にしていたのですが、どうしても90年代のロマコメみたいなタイトルとパッケージアートに観る気を削がれてしまってまして…。『女神の見えざる手』というタイトル、鑑賞してみれば納得です。原題の『Miss Sloane』はもっと納得なんだけど、そのタイトルで観る気が起こるかと言われるとちょっと…。ポスターアートは海外版も余り内容を表現出来てない雰囲気です。
こういう、派手さは無いものの確実に面白い映画を、余り普段映画を観ない層に届けていくのって、ホント大変なんでしょうね…。その辺りの配給会社の内幕を描いた映画って無いのかな?まあ、有ったとしてもコアな映画ファンしか観ないのでしょうけど…。