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エゴン・シーレ 死と乙女のくりふのレビュー・感想・評価

エゴン・シーレ 死と乙女(2016年製作の映画)
3.5
【陽だまりのシーレ】

回想形式でエゴン・シーレの画家人生を振り返る、端正な伝記映画。

中野京子さんによると事実にほぼ忠実な脚本、とのことですが、物語としては後半、事実の羅列のように平坦となって終わってしまう。

シーレの描画機会が減ってゆくせいか、とも思いますが、ああしたエロスを描こうとした原因に踏み込まないことも大きい、と思った。

よかったのはまず、シーレを溌剌とした青年として描いたその鮮度。シーレ役は新人さんだそうですが、見るからに健全なイケメン。作品からつい連想する腺病質な印象は捨てている。実際そんな面が大きかったようですね。だからこそ、ああいう作風が謎でもありますが…。

ヒントとして、父親の梅毒狂死を添えてはいますが、前半はまるで、ゴダール映画でアンナ・カリーナを巡ってはしゃぐ青年たちのよう…と個人的には連想。だって女の子を自転車に乗せ、笑顔で陽だまりを走り抜けるシーレなんて、私的にはあり得んですよ(笑)。

次に、絵のモデルに人物としての厚みを加え、シーレとの関係を細密化したこと、これが面白い。原作小説に沿ったらしいですが、周囲の女性を通してシーレを炙り出そうとしている。

妹をヌードモデルにすることに始まり…このインセストな匂いが危なくって…代々女性の葛藤が、時に切なくも響く。

シーレは、自分は内面を描く、と言うがモデル女性の気持ちには鈍感だった。時代と、男女差別についても考えさせられます。

あとはパキッとした映像美。オーストリア映画ですが、あのお国らしきシャープな色彩と立体感と伝統とを堪能するだけで価値があると思う。

シーレ作品もそこそこ登場し楽しめますが、当時のウィーンで、全裸の活人画を見せていたという辺りも面白い。

ヌード出現率は高いですが、モノとしての身体を意識させられる。扇情的ではなく、だからそこから生まれた絵が裁判でポルノと非難されても、素直に違うと言えますね。

女優さんの存在感が素晴らしいですが、特に要の時期の伴侶であったヴァリ役ヴァレリーさん。この方、どう見ても美女ではないです(笑)。時々、変顔としか思えないが素顔ですよね?

が、ハスキーボイスのみで登場するに始まり、何と言うか「どうしようもなく女なんだ」という身悶えするような魅力に満ちている。こういうタイプは久しぶりに出会いました。他の女優さんも何と!全員素晴らしいですが、ヴァレリーさんは特出しています。

シーレの淫行疑惑はわりとあっさり流しちゃったけど、もう少し踏み込めなかったのかな?そこからシーレ作品の秘密に、もう少し触れられた気がします。あの子も美少女でしたね。

アトリエに向かって歩いてくるショットは、シーレと真逆、印象派の絵のようで見惚れました。

ところで想い出すのは、1980年に映画化された『エゴン・シーレ』です。あちらのヴァリ役はジェーン・バーキンで、痩せた身体に始まりメチャ嵌っていた記憶あり。本作とは真逆で、全編、退廃的な雰囲気と映像に覆われ、画がとても寒々しかった。

あと、スペイン風邪に身悶えするシーレね。久しぶりに再見したいのです。

<2017.1.30記>
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