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ジェーン・ドウの解剖のレクのネタバレレビュー・内容・結末

ジェーン・ドウの解剖(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

3人が惨殺された家屋の地下から裸の身元不明の女性が見つかった。
検死を依頼された親子は解剖を進めていくが、その遺体に隠された戦慄の事実を知ることとなる。


ブログからの引用です。



まず、タイトルにある「ジェーン・ドウ」と「解剖」について。

ジェーン・ドウとは主に訴訟などで匿名希望もしくは本名不明の女性を意味する言葉ですね。
男性はジョン・ドウ。
ジョンドウ起訴という言葉があるくらいメジャーです。
身元不明の遺体に対して使われる名前。
日本でいう「名無しの権兵衛」です。

解剖される目的の一つに身元が分かる手掛かりを見つけること。
死因だけでなく、傷の有無や形から自殺か他殺か。
歯型や持病などから、かかりつけの病院などを割り出して捜査に繋げていく流れが一般的です。
江戸時代には腑分けと言われ、内臓の構造を調べることが解剖とされていました。

解剖は大きく、病理解剖、司法解剖、行政解剖の3つに分けられます。
病理解剖は病院で死亡した患者の死因を調べる場合に専門の医師によって行われる解剖。
司法解剖は犯罪に関わる遺体に法医学者が施す解剖。
行政解剖は病院で亡くならず、犯罪の関係もない死体に対して監察医が施す解剖。

今作における検死解剖は一家惨殺のあった家屋の地下から見つかった遺体なので、犯罪に関与するであろう遺体、つまり司法解剖にあたります。


次第に判明していく死体の秘密はミステリー要素とホラー要素が上手く使われた演出になっています。
ちなみに、昔ながらの習慣で、遺体安置所に運び込まれた遺体の足首には鈴をつけることになっているそうです。


死体から見つかる聖書の一説『Leviticus 20:27』
「男または女で、口寄せ、または占いをする者は、必ず殺されなければならない。すなわち、石で撃ち殺さなければならない。その血は彼らに帰するであろう」

口寄せとは、未来のことを知ろうとすること。
つまり神、キリストを介することなく霊の世界と交わることを意味し、占いやオカルト、超能力といった類の悪霊によるものを指します。
詳しくはレビ記の19章辺りに記されていますので、興味のある方は調べてみてください。

この20章では死刑に関する規定が記載されてます。
このことから、17世紀にニューイングランドで行われたセイラム魔女裁判で犠牲になった人の遺体ではないかと作中でも推測されます。
所謂、魔女狩り。
大半は無実の人間と言われていますが、この死体は本物の魔女だったのでは?と思わせる部分ですね。
当時の魔女狩りの処刑法としてはヨーロッパ大陸では焚刑が多く、イギリスでは絞首刑や溺死刑などもあったそうです。

両手足首の骨折は縛られたことによるもの。
歯や舌が抜かれていたのは拷問。
焼けた肺は火炙りにされた際に負ったものと考えられる。


魔女狩りで最も有名な文献は「マレウス・マレフィカルム」ですが、ここで面白い文献が目に留まりました。

フランシスコ・マリア・グァッゾの『コンペンディウム・マレフィカルム』(1608)からの抜粋。
「昨今、魔女が屍骸を掘り返して人を殺傷することに用いることが慣習となっている。
とりわけ死罪や絞首刑に処せられた人間の屍骸が用いられる。
魔女はかくもおぞましき材料から魔力を更新するのみならず、処刑に際して用いられた道具すなわちロープや鎖や杭や鉄製品も重用する。
事実、この種の物品に固有の魔力が宿るという信仰が広く流布している。」

注目すべきはこの冒頭。
「魔女が屍骸を掘り返して人を殺傷することに用いることが慣習となっている。」

そうです。
死体が魔女でトミーがその妖術により死体と同じような苦しみを受けた。
と本作では見せていますが、実際は
死体に掛けられた魔女の妖術でトミーはその死体と同じ苦しみを受けた。
とも考えられるのではないか?

つまり、ジェーン・ドウの死体が魔女という説とは別に、魔女が死体に人を殺傷する妖術を施した説を提唱出来ないだろうか?
見る限りですが、この考察を提唱している方は他に居ないので、自分はこの説を推していきたいと思います。


多少のグロ耐性は必要かもしれませんが、ホラー映画が好きな方には迷わずオススメできる作品。
オカルトな部分と密室内、解剖の描写、心理的にも視覚的にも恐怖心を煽る演出は見事だと思います。
また、医学的な解剖によって立証されてしまう心霊現象に打ちひしがれる、エンターテインメント性の高いホラー作品です。
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