TAK44マグナム

アンダー・ザ・シルバーレイクのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

4.0
知らない方がハッピーでいられるのに、どうして嗅ぎ回るんだ?
犬みたいに。


光が闇さえもひた隠す街シルバーレイク。
全てを失いつつある青年サムは、知り合ったばかりのサラと甘いひとときを過ごすが、翌日、彼女は失踪してしまう。
犬殺し、フクロウ女、セレブの失踪・・・
「何か」が起きている街を彷徨い、サムはサラの影を追い続ける。
その先には、サムのもつ価値観を根底から覆す衝撃の事実が待ち受けていたのだが・・・



難解だ。
受け手によって、それぞれ解釈が違うと思う。
本筋では釈然とはしないものの謎は解ける。
しかし、散りばめられたいくつかの謎は最後まで謎のまま。
謎は謎だから謎なのだ、と言わんばかりに何も分からないまま、主人公であるサムがそれまでの自分を達観するかのように、空虚な根城を見つめて終わってしまう。

「喰う者」と「喰われる者」で世界は分けられている。
置き換えれば、「飼う者」と「飼われる者」と言って良いのではないだろうか。
「犬」とは誰なのか?
犬に与えるエサは誰が、どこから持ってくるのか。

知ってしまえば大切にしてきた何かを失う。
それでも知らずにはいられない者もいる。
辿り着いた真実に打ちのめされ、「大切なもの」は「大切だったもの」へと変わる。
青春は残酷にも終わりも告げ、大人になる時がやってくる。
そして、やがて選択するのだ。
犬のように這い回るのか、それとも鳥のように自由に空を飛び回るのか。
もっとも、鎖で繋がれるのも、籠の中に囚われるのも、そのどちらも自由など無い囚人なのは変わらないが。


豪邸も、高級車も、ブランド品も、音楽も、映画も、コミックも、アニメも、ゲームも、なにもかも全てはクソなのだ。
みんなクソまみれの世界でクソのような人生をおくっているにすぎない。
そこには夢もロマンもない。
あるのは欲望という名のクソだけなのだ。
セックスでさえ、クソの行為でしかないのだ。

だけど愛してやまない。
たとえ世界の全てがクソなのだとしても、この愛しい世界で生きていくしかない。
好きな映画を観て、好きな音楽を聴いて、好きなゲームをプレイして、好きな車に乗って、好きなものを食べて、好きな相手と抱き合っていたい。


しかし、それは永遠に続くものなのだろうか?
かつて、秦の始皇帝が欲したように、人は成功すればするほど失うのが怖くなる。

「永遠」という甘美な言葉に騙されてはならない。
それはエサだ。
犬に与えるエサなのだ。

サムが辿り着いた「真実」に、誰もが絶句するに違いない。
そこには、愚かしくも哀しい虚栄のみが溢れ、希望よりも絶望がお似合いの「犬」しかいない。
「永遠」という名のエサにつられた「犬」の運命は、まさに失楽園なのだ。

喰らうなら、「一瞬」という名のエサを喰らうべきだ。
それが、このクソのような、それでも愛してやまない世界で生きてゆくということなのだから。



劇場(109シネマズ湘南)にて