カツマ

アンダー・ザ・シルバーレイクのカツマのレビュー・感想・評価

4.5
俊英デヴィッド・ロバート・ミッチェルの野心がこれでもかとぶち込まれた異形の産物が爆誕してしまった。2時間20分の上映時間内にギッチリと詰め込まれた無数のオマージュと既存のポップカルチャーへの問題提起を、フィルムノワールサスペンスの世界観に溶け込ませグツグツと煮込んでみたら、そこはもう巨大な迷宮のようなロールプレイングゲームの中。監督自身のオタク的な趣味の世界がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、3本分くらいの映画を無理やりひとまとめにしたかのような洒落にならないレベルの情報量に目眩がしそうな作品だ。

ヒッチコック?リンチ?いや、これはホドロフスキーなのか?どこかで見たことのある建物が。スーパーマリオ?ゼルダの伝説?クエスチョンの連続の果てに待つ思考世界に出口はあるのか。夢遊病のような物語なのに着地は完璧に決めてくる。この映画は妄想だけの物語ではないはずだ。

〜あらすじ〜

そこはロサンゼルスの片隅。仕事もせず、家賃も滞納し続けているオタク青年サムは、ベランダから女性の裸を覗いたり、友達の女性とセックスに興じたりと性欲まみれの自堕落な毎日を送っていた。そんな彼は近くに住むセクシーな女性サラに一目惚れ。何とか彼女に近付き、あと一歩のところまで迫るも、来客により二人のロマンスは中断されてしまう。サラは季節外れの花火を見上げながら、サムに『また明日来て』と伝えるも、来たる翌日、サラは姿を消した。
彼女の家はもぬけの殻。あまりの突然の引っ越しを怪しんだサムは、家に忘れものを取りに来たサラとは別の女性を尾行することに。果たして彼女はどこへ行ったのか・・。

この映画にはたくさんの謎が横たわっている。犬殺し、フクロウの仮面の女、大富豪の死、そして消えたサラの行方。それらの謎が次々と提示されるも、スマートな解決へと導かれないままに、サムの進む方向と同じ道へと連れ出されていく。
サムを演じたアンドリュー・ガーフィールドは今までのイメージを打ち砕くぐうたらオタク役を熱演しており、オマージュで雑に扱われた某ヒーロー映画のイメージを完全に払拭した。

音楽に関してはヒッチコックやデパルマを彷彿とさせる古きフィルムノワール作品のパロディとなっていて、現代を描いているのに、何故か過去を描いた映画のように見える、謎の時空を彷徨っている。
予習は必要かと言われるとあまりに元ネタが多いので、この湖にとりあえず飛び込んでみることをオススメします。しかし、例外として監督の過去作品『アメリカン・スリープオーバー』と『イット・フォローズ』は絶対に見ておきましょう。自らの映画まで元ネタにしてしまうこの監督の遊び心と変態性を感じることができるはず。まだまだ語りたいことが尽きない考察しがいのある作品なので、ネタバレと考察は以下に記すことにします。







〜考察(ネタバレ含む)〜

この映画にはいくつかの謎があります。それらを列挙してみると、

・サラはどこへ行ったのか?
・暗躍する犬殺しは誰なのか?
・大富豪は何故死んだのか?
・フクロウの仮面の女は何者か?
・作曲家のシーンの意味とは?

まだまだありますが、極め付けが

・どこまでが妄想でどこまでが現実なのか?

物語の謎についてはまずは最後の問いが全てとも言えます。この映画は夢と現実の狭間を漂っているかのような、夢遊病的な作品。しかし、全てが妄想では辻褄が合わないことがかなり多く、この嘘のような物語には現実のこととして描かれている部分が多分にあるのです。








〜更にネタバレしていきますのでご注意ください〜

いくつかの謎に回答を出してみます。
(謎はキリが無いほどあります)

・サラはどこへ行ったのか
→一応の回答が得られます。
・犬殺しとは?
→これはかつてハリウッドで暗躍したという都市伝説へのオマージュと言われています。しかし、主人公のサムは犬へ良いイメージは無いはずで・・。
・大富豪は何故死んだ?
→こちらも妄想かもしれませんが、一応の回答が得られます。
・フクロウの仮面の女は誰か?
→これも難解です。妄想かもしれませんが、それでは詰まらない。この映画には女性が多く登場してきますが、その中に該当する女性がいるかも?
・作曲家のシーンの意味とは?
これは分かりやすくポップカルチャーを皮肉った監督の問題提起でしょう。大ヒット曲が次から次へとピアノで演奏され、最後にはカートコバーンのギターがぶち壊れるというショッキングかつ刺激的なシーンです(名シーンかと!)

更に
・何故ララランドと表裏一体と言われているのか?
舞台がロサンゼルス。そこはハリウッドのお膝元。夢を叶えた者たちと夢破れた者たちが同居する街。ララランドは夢を追い、階段を登っていった、夢を叶えた話ですが、この映画は真逆。夢破れて散っていった無残な夢のカケラがそこらじゅうに散らばっています。ララランドと同じ灯台が登場したりと、オマージュのシーンも出てきます。

映画的なオマージュは更に膨大です。ヒッチコック、リンチ、デパルマ以外にも、劇中に出てくる過去の女優はハリウッドで謎の死を遂げた人ばかりだったり、そこに都市伝説を絡めてきているそうです。ハリウッドの闇を描き、そこでもがく者たちを描く。そのためならば監督自らの処女作さえもネタにしてしまう。(アメリカンスリープオーバーの予習は必須ですね!)

ニルヴァーナが好きな人ならばあるシーンにネバーマインドを感じるでしょうし、ホドロフスキーが好きならばあるシーンにホーリーマウンテンみを感じることができるでしょう。とにかく情報量が凄まじいので、小ネタの一つ一つに答えが用意されていると思うのですが、何しろ一回見ただけでは咀嚼し切れない!

まだまだ考察したいところですが、これではキリが無いのでここら辺でやめておきます。鑑賞した方の意見をぜひとも聞いてみたい作品です。掃除用具で戦うアクション映画って何だと思いますか??
カツマ

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