マヒロ

アンダー・ザ・シルバーレイクのマヒロのレビュー・感想・評価

3.5
仕事をするでも何をするでもなく、双眼鏡で隣の家のおばさんの家を覗いたりして無気力に過ごしている男・サム(アンドリュー・ガーフィールド)は、ある日出会った近所に住むサラ(ライリー・キーオ)のことが気になり始めるが、少し良い関係になり始めたと思った矢先にサラは家財丸ごと行方不明になってしまう。何も告げずに消えたサラの事がどうしても引っ掛かり、暇なサムは彼女を探し始める……というお話。

消えた人間を探してあてもなくさまようという大筋は『ロング・グッドバイ』や『インヒアレント・ヴァイス』を彷彿とさせる感じで、だんだん思いもよらぬ方向に事件が進んでいってしまうあたりも似ている。ただし今作は何か普通じゃない異様なエッセンスが至る所に散りばめられていて、「犬殺し」というキーワードやフクロウマスクの殺人鬼、墓場にある謎のバーに姿を見せない大富豪のソングライターなど、事件に関係あるのかすら分からない様々な要素が次々と絡んできて、サムと一緒に見ているこちらも混乱させられる。
夜のハリウッド付近の街を舞台にした『マルホランド・ドライブ』なんかも彷彿とさせるが、なんとなくこちらはリンチと違ってその意味不明さにどこかあざとさを感じてしまった部分もある。フィーリングの問題だから何故そう感じたかははっきりとは言えないけど、そもそも主人公がサブカルチャーにドップリ浸かった人間であるということは示されてるし、この映画自体も同じように何かしらのサブカルに影響を受けて作られたのであって、その混沌とした描写は監督の頭の中をそのまま映画に落とし込んだようなものではない、というのがなんとなく分かってしまったからなのかなと思った。

結局のところ、サムがやってることは自分の周りにあるものを「これのせいでおかしな事になってんだ」とこじつけているようなもので、それが糸口となって何かが見つかることもあるが、それも音楽だったりゲームだったり彼の手の届くようなものばかりがわざとらしくヒントになっていて、本当に起こっていることなのか、彼が勝手にそう思っているだけなのかというところはこちらからは全くわからない。リアリティラインがものすごい曖昧で、実は全部妄想でしたと言われてもおかしくないような話でもあり、この取り留めのなさはまるで悪夢を共有しているような気分になってくる。

監督自身が舞台となったシルバーレイク付近に住んでいたことがあったという話は聞いたことあるけど、その時の思い出を基に作っているのだとしたら、よっぽど混沌とした気持ちで毎日を過ごしていたんだろうな…と寒々とした気分になってくる。思えばこの掴みどころのなさは、何かやりたいけどどうしようもできないという焦燥感で頭がグルグルしている様を描いているようにも見えてきて、有名俳優使って映画撮れるようになって良かったね……と変に感慨深い気持ちになってしまった。
面白いか面白くないかでいうと一口では言えないけど、でも少なくともそれなりの長尺ながら退屈はしなかったかなぁという感じ。

(2019.216)
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