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そうして私たちはプールに金魚を、のmazdaのレビュー・感想・評価

4.4
埼玉県狭山市の中学校のプールに縁日で盗まれた400匹の金魚が放たれたという実際にあった事件をもとに、金魚を放つまでの女子中学生たちのアンニュイな姿を描く。

なんて斬新な映画なんだろう。まったく新しいものを見た気がする。彼女達が金魚を放ち、スケスケになった制服のシャツで帰る姿、ティーンズ感溢れたエンドロールまで鳥肌立ちっぱなし。
彼女たちは14歳にして全てをさとったような目をして、何も起きない狭山市の日常、自分が踏み出さなければ何も起きないなんてことない生活、同世代のアイドルを横目に見ながら自分の地味な学校生活を比較していて、それをわかっていてもとくに何かしようと思わない自分自身に、全てにつまらなさを感じていたんだろう。
内心では何考えてるかわかんないようないつめんと過ごすくだらない毎日も、内側でこっそり想うだけの恋愛も、映画やドラマみたいに何か特別なことが起きるわけじゃないことなんてわかりきっていて、味気のないこの先の人生を勝手に予測してしまうのだ。

私は彼女たちがこのままなんの変哲もない人生を一生狭山市で送るとは思わなくって、きっとどこかで価値観を変えるタイミングがやってきて、これが人生の中で1番の幸せな瞬間かもって思えちゃう恋をする日がやってきて、そういえばあんなことを考えてた時があったなと懐かしむ日がくるんじゃないかと思う。
それにもし仮にも、狭山市の高校をでて狭山市の大学にいって普通の人と普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に主婦をやる人生だったとしても、そこにはきっと幸せがあると思う。
その事に気づかずだらだらと暑い夏を過ごす溶けそうなソフトクリームみたいな彼女たちでも、私にはとびきり甘くて美味しい毎日に思えた。大人になったら絶対味わうことのないキラキラ感でいっぱいだった。

「プールで金魚が泳いでる美しい絵を期待してこの映画を観た人ごめんね」っていうセリフに対して、期待していた美しさよりもはるかに美しいものを見せてもらったよと思った。
赤色の金魚と青色のプール、彼女たちはそんな決められた枠の美しさじゃない。時に鮮やかで、時に褪せていて、何にも染まらない色、もしくは何色にも染まる色。色なんかで表せる美しさじゃない。
インスタに載せるようないわゆるリア充キラキラライフスタイルではないけど、この瞬間のこの感覚を忘れることはないんだろうというくらい特別な時間だと思った。
彼女たちが高校生になった時、中学時代は楽しかったなときっと思い出し、大学生になった頃高校生は楽しかったなと思い出し、社会人になったとき戻ることのない学生時代を楽しかったなと懐かしむはず。今のあなたたちは生涯忘れられない日を全力で過ごしてるんだよと教えたくなる。アイドルのキラキラよりもずっとキラキラしてるんだよって教えたくなる。きっとはぁ?って言われるんだろうけれど。スケスケのシャツから見えるブラジャーを見て彼女たちの濁りのない純粋さを確信する。
例えつまらない学生生活だろうと、彼氏がいなかろうと、ティーンズの感覚はみんながもっていた宝物で、気づいたらなくなってしまったものだと思う。若い人にしか聞こえないキーーンの音のように。

金魚屋のおじさんに4人で中指たてるところが好き。なんかすっごいイキイキしてるから。
こんな意味のなさそうな毎日が意味があったんだと気づくくらいの大人になった彼女たちを早く見たいと思った。はあ、好き。
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