優しいアロエ

そうして私たちはプールに金魚を、の優しいアロエのレビュー・感想・評価

4.2
〈井の中のJCは倦怠と焦燥にのた打つ/和製『ランブルフィッシュ』〉

 近頃の世界的な自粛措置により、新作映画が相次いで公開延期になっているが、そんな危機的状況をシネフィルが乗り越えるための方法として、VODとともにその存在感が問い直されているのが「短編映画」である。

 というのも、短編映画は版権の問題がクリアしやすいのか、さまざまなコンテンツや作り手がこの機会に短編映画をオンライン上にアップしてくれているのだ。Twitterで検索すると色々出てくるのだが、そのほんの一部として、気になるものを挙げてみた。

①フランスの短編を現時点で68本公開
「お家にいよう MyFFF STAY HOME edition」https://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/

②濱口竜介『天国はまだ遠い』
https://vimeo.com/206682021

③岩切一空監督『花に嵐』
https://youtu.be/qrrqk4bQTwI

④瀬田なつき『あとのまつり』
https://vimeo.com/262644607

 さて、そんな短編映画ブームのなか、(以前からYouTubeで観られた作品ではあるが)SNSで話題に上がっていたのが『そうして私たちはプールに金魚を、』である。埼玉県狭山市で実際に起こった金魚放流事件に着想を得ており、若手監督の登竜門サンダンス映画祭で短編部門グランプリに輝いている。
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 中3の女の子たちは狭い世界と限られた知識のなか、懸命にもがいている。いまの居場所を漠然と嫌悪し、アンニュイで自滅的になっている彼女たちの姿には、自分にも思い当たる節がある。

 青春が終わりを迎えようとしていることにふと気づき、焦燥に駆られはじめるのは誰だって「夏」である。そしてその象徴こそ、あの夏祭りの金魚なのだろう。ティーンたちが鑑賞魚に想いを託して放つ姿は、『ランブルフィッシュ』のマット・ディロンを彷彿とさせた。

 なにかが変わることを期待して金魚を広いプールへと解き放したのはいいが、結局それも「学校」という今の居場所に頼っている。地元の売れないアイドルを嘲笑っているが、君たちだって現実の範疇で一線を超えるのが関の山。かといって、そんな井の中のJCの矛盾を笑うこともできないよな。

 監督の長久允はCM畑の出身。そこで得ただろう多彩なカードを惜しみなく出し続け、奇抜な映像表現を応酬させる。さらに、JCの形なき感情とカルチャーの洪水が私たちを襲う。これはもう21世紀JC版『グッドフェローズ』とでも言うべき怒涛の筆致である。

 セリフが多すぎるのは本来映画ではご法度だが、本作はそこがいい。というのも、セリフの内容に意味があるわけではなく、「口数が多く語彙力が薄い」といったセリフのディテールに意味があるからだ。頭のなかで考えが纏まるより先に口から言葉が出てしまう。自分をさも俯瞰できているかのように語ってしまう。そんなティーンのイタさにはやはり身に覚えがある。「死ね」とか「キモい」とか、そういう強い言葉を発しながらでなければ、生き繋ぐことなんかとてもできなかった。

 『エイス・グレード』にしろ、『アメリカン・スリープオーバー』にしろ、夏はティーンにいちばん残酷な季節なんだよな。
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