ToshiKato

おとなの事情のToshiKatoのネタバレレビュー・内容・結末

おとなの事情(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

タイトル : 鍵付き日記帳
ー映画「おとなの事情」ー

小学生4年生の時、鍵がついた日記帳がクラスの女子の間で大ブームになった。
ブームの火付け役はたしかスミレちゃんだったか。
親に買ってもらったそれを学校に持ってきた。
日記帳はたいそうなものではなく、可愛いキャラクターが描かれた表紙のノートに小さな南京錠がついただけのものだった。
けれどスミレちゃんが持ってきたそれに、クラス中の女子の心が鷲掴みにされた。
部屋は兄弟と共有で、小さな町内が世界のすべてであった小学4年生の私たちにとって、鍵付きの日記帳は、初めての「じぶんだけの秘密」だった。

ポップなハムスターの絵が表紙の鍵付き日記帳を、私もすぐに買ってもらった。
小さくて金ピカな南京錠に、薄っぺらい鍵が(予備用なのか2つ)ついていたのを覚えている。
すごく興奮して南京錠をあけたのだが、真っ白な1ページ目と対面すると、かしこまって、何も書くことがなくなり、困ってしまった。
サッカー部のあの子のこととか、自作の小説とか、私にも女子小学生なりの秘密があったけれど、どれも鍵をつけるほどの秘密じゃないような気がした。
仕方なく、お気に入りのシールを貼ったり、日記みたいなものをつけてみたけれど、数日で飽きた。
結局、私以外のみんなも「じぶんだけの秘密」を十分に扱いきれなくて、中身を見せ合ったりして、最終的にはただのノートになっていた。

あの時の日記帳はいつのまにかどこかにいってしまい、今わたしの手の中にはスマホがある。
映画「おとなの事情」は、幼馴染の友人同士が集う夕食の場で、スマホを見せ合うというゲームを始め、それぞれの秘密が徐々に明らかになっていくというあらすじである。
縦13センチ、横7センチの、板チョコみたいに薄っぺらい機械。
これが私のすべてではないけれど、家族や友人が知らない”私”がこの中にあるのも事実だ。

恋人とごはんを食べているとき、机の上にはスマホが2つ並ぶ。
たまに彼のスマホがピロンと鳴る。
誰かがこの人を呼んでいる。
私の知らない、誰か。

大人になるにつれて秘密が増えた。
鍵をあけて中身を互いに見せ合いっこするような無邪気さは、あのノートと一緒にどこかへ失くしてしまった。
けれど、お腹に秘密を抱えながら生きている大人の私たちも、それはそれで良いかなって少し思う。
秘密の中身を共有しなくても、秘密という”人間の奥行き”を互いに認め合えたなら、私たちはこれからも一緒にいられる。 

大人には大人の事情がある。
ToshiKato

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