ちろる

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のちろるのレビュー・感想・評価

4.1
天才ゆえの苦悩、葛藤、そして孤独。
こんな事、言い尽くされすぎてこうして言葉に書くと、なんだか陳腐になってしまうけど、ゼルゲイ ポルーニンという本物の天才の幼い頃からを追うことで凡人の私でさえもいつの間にか彼を疑似体験していた。

美しい顔と、獣のようにしなやかな肉体、繊細な心を持ちながら、全身タトゥーと、ドラッグ漬けとなりバレエ界の異端児と言われた彼の素顔は思っていたものとは全く違い、純粋そのものの、優しい青年だった。

バレエ界を抜け出した彼が、親友の振り付けで踊る「Take Me To Church」の圧巻のダンスシーン。
本当に神様に選ばれし者が魂を込めて表現するものを目の当たりにすると理由もわからず涙が止まらなくなることを知った。

私は小学生でバレエを辞めてしまってバレエ界を良く知っているわけではないけれど、男性のバレエダンサーは女性以上に躍動感と優雅さを求められる非常に過酷なスポーツであり、そのために受ける肉体的苦痛は想像を絶するものだと思う。
目標を見失い、踊る意味を見失い、それでも踊らなければ生きていけない「神様の贈り物」の肉体を持った彼の人生が枠を外れても心安らかに生きていけるようになればと祈るような気持ちになっていた。

バレエに興味がない人でも観て欲しい。天才の苦悩、若くして目標を失うことの喪失感と残りの長い人生との向き合い方を考えさせられる内容と共に、ホームビデオとして残っている映像がとてもドラマティックで、まるでこのドキュメンタリー映画が作られることが予言されてきたかのような仕上がり。
音楽の使い方も他のバレエドキュメンタリーとは異なって秀逸でした。
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