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ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のbluestarのレビュー・感想・評価

4.0
こちらも、アップリンククラウド60本見放題で観た2本目です。

若くして才能を開花し、ロシアのキエフバレエ団からイギリスのロイヤルバレエ団へ移籍し、最年少でプリンシパルにまで登り詰めた、稀有なダンサー、セルゲイ・ポルーチンのドキュメンタリー。

見放題の1本目で観たジョン・カリーのアイススケートでの芸術家の人生とは当然全く違うのだけど、才能と成功を収めながら、苦悩に満ちた人生を送り続けていたのは、共通しています。

ドラマチックなドキュメンタリー
の中で、幼少期のホームビデオを始め、とても丁寧に描かれていました。力強い良い映画。



⚠️以下ネタバレ注意です。

バレエダンサーの映画でありながら、冒頭からオジーオズボーンのメタルロックが流れるのにまずは驚きます。
この人の歩んで来た荒々しい人生にはタイトルの邦題にあるように“野獣”の面もあるけれど、それはどんな人生をたどればそうなるのか、痛いほど描かれていたドキュメンタリー映画でした。

ポルーチンの場合、母親が子どもの才能を信じて伸ばす為に、家族が離散までして子を後押しするのだけど、それが本人にとってどれだけのプレッシャーだったのか、
家族の愛を近くで感じられずに孤独に過ごした少年時代が、どれ程精神を不安定にさせるのか。

幼いうちは好きな事を応援してくれる家族に愛を感じ、家族からの期待へ純粋に応えようとしている姿がひたすら健気で、観ながら応援してしまう。
でも、自分が頑張ればいつか家族がまた一つになれると信じ頑張っていると判ると、ちょっと子どもには重過ぎるプレッシャーではないかと観ながら心配になる。

本人の願いが実現不可能と知って崩れる姿は痛々しく、同時に早くに成功を収め過ぎて、次の目標が見えなくなり、20代前半にしてあっさりとトップキャリアから退く決意をし、ロイヤルバレエを辞めてしまう。

ドラッグに頼り、身体中にタトゥを入れるような享楽と苦悩の生活からも解放されて、立ち直るには一度断ち切る必要があったのだろうし、その決断は英断だったはずだけど、世間ではスキャンダラスに取られたのか、次に引き受けるバレエ団は無かった。

クラシックの演目でいくら全身にファンデーションを塗りまくっても、上腕部にジョーカーの入れ墨が透けて見えてしまうのは、さすがに“バレエ界の不良”と呼ばれてしまうのも仕方ない面があるけれど、この映画を観ればこの人のピュアさはよく解るし、共感できる。
世間からの評判というのは本当に当てにならないものです。

本人が直ぐに移籍先を本気で探したのかは判らなかったけど、ロシアに戻り母親との暮らしを再開する。
その時の無邪気な姿にはちょっとウルッと来ます…。

戻ったロシアでは無名ゆえ、テレビのオーデション番組のようなスタジオで再スタートしていたのには驚きでした。
評価は正当なものでしたか、大舞台ではなく、TVスタジオってのが…

しかし、まだ若く才能あるダンサーはこれで終わるわけが無く、新しいダンスビデオ制作に情熱を再び注ぎ出す。
本人の選曲したロック曲を友人に振付を依頼。撮影場所はハワイ。

アイルランド出身アーチストホージアの2013年デビューシングル「Take Me to Church」はロシアの同性愛禁止法によるゲイへの差別に批判する内容であり、アイルランド本国ではチャート1位、アメリカでは2位にまでなったヒット曲。
曲だけ聴いていれば力強いけど神聖な空気感に満ちた印象。
そのメッセージ性を知れば、よりポルーチンがこの曲を選び、自分の再チャレンジを表現するに値するものだと決めた理由が理解出来る気がしました。

最後の場面はそのダンスシーン。
自然光が注がれた空間で、音とダンスが交わり、神々しくさえ感じる作品となり圧倒されました。

YoutubeにUPされると瞬く間に再生回数が跳ね上がる。
それを映画を観た人は、再び検索して観ずにはいられません。

これですね。
・セルゲイ・ポルーチン
https://youtu.be/LNkOhArBcc8

2015年のこの記事も詳しいです。

・ホージア『Take Me To Church』世界的バレエダンサーとのコラボ新MVが登場
https://genxy-net.com/post_theme04/music20150210/

見逃して来たのが勿体無かったと思えたドキュメンタリーでした。
まだ若いダンサーを今後もっと注目していきたいです。
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