垂直落下式サミング

ある決闘 セントヘレナの掟の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.9
メキシコとの国境リオ・グランデ川に何十という死体が流れ着いた。この事件を捜査するため、依頼をうけたテキサス・レンジャーが流の町へと向かうと、そこは説教師ウディ・ハレルソンがオカルティックな邪教によって人々を支配する悪魔崇拝の町だったというおはなし。西部劇版のカーツ大佐である。
オリバー・ストーンの『ナチュラルボーンキラーズ』がマジギライすぎるせいで10年近くウディ・ハレルソン・アレルギーだった僕だが、『猿の惑星 聖戦記』『スリービルボード』以降のイケおじ化に手のひらを返すことになった。
これまでウディ・ハレルソンの出演作はいっぱい観てるはずなのに、どれもまったくいい印象がない。『ゾンビランド』なんか超楽しい映画のはずなのになんか嫌だし、大好きなバスケ映画だった『ハードプレイ』もちょっと嫌いになったし、愛しのジェニファー・ローレンス主演『ハンガーゲーム』に出てたときは髪の毛あったからなんとか許せたって程度。あと『グランドイリュージョン』は普通につまんなかった。どんだけ嫌いだったんだって感じだ。
でも、そもそも『ナチュラルボーンキラーズ』が嫌なのは、あの眼球に悪い演出とか、やたら露悪的で過激ぶりっ子なストーリーが嫌なのであって、彼に罪はないはず。なのに、なぜかずっと悪い印象で脳内に残っている。
そんなこと思いながら、この映画をみてみると「いけすかない思想家なのに周囲から支持される」という嫌ポイントはそのままなのに、とても説得力があっていい。上手い。長らく不当に毛嫌いして勿体ないことをしたと思う。
なるほど、本人と映画のなかでの役柄を同一視してしまっても仕方ないくらいの、特別な存在感がある。本作でのウディ・ハレルソンの芝居は、自分を完全にコントロールしきった大人の余裕が半端じゃなく、その雰囲気でマチズモ的思想の中心にいる男を演じたときは、すさまじいハマり様である。歳を重ねた内面の深みと風貌とが一致していて、これによって特徴的な役柄を違和感なくみせてしまう。
彼が教義とする邪教は、漠然としたイメージに基づく邪教崇拝であるし、こんなものに主人公の奥さんがいとも簡単に洗脳されてしまう設定の甘さはどうかと思うが、ミソジニーともとれるような女性の扱いの悪さが、気骨ある往年のハリウッド原産バイオレンスを今に引き継いでいると言えるのではないか。うなり声をあげるような気性の荒々しさがうれしい。
それにしてもイケおじだ。テンガロンハットをギャグにならずに着こなせること、それ事態がすでにとてつもない才能である。