しゃび

名前のしゃびのレビュー・感想・評価

名前(2018年製作の映画)
5.0
とても好きな映画だったなぁ。


本名を捨てて複数の偽名を使って生活する男。
これは、僕で言うところの「しゃび」のように、オンラインでハンドルネームを使うのとは話が違う。なぜならば、本名を故意に偽っているからだ。

要するに「欺くための演技」をしている。

この映画は演ずるということが一つのキーワードになっている。演技をして過去の自分から逃げようとする男と、演技をしても自分が分からないという女子高生。

僕たちは各コミュニティの要請に応じて、多かれ少なかれ何かを演じている。演じていない時の方が少ないので、演技と素の自分の境目が分からなくもなっている。

そう考えると、おそらく演技も含めて自分なのだろう。

しかし「演じなければいけない」という役割意識が強くなればなる程、自分の「心」が分からなくなってくる。そう思うと、演技や嘘や勘違いにまみれた、彼らの関係の方がよほど本質的に思えてくる。

2人は「諦めていたものを探す」行為をしているからだ。


さて冒頭にも書いたが、
僕はこの映画すごく好きだった。

全てのシーンが思い出のように心にとまった。

自転車・ボート・喫茶店・お祭り・閑散とした借家。その画面画面とその繋ぎ目にいちいち愛着が湧いてくる。2人とノスタルジーを共有するかのように。

人以外を強く印象付けられる映画は素晴らしい。

そして、人もちゃんといい。
何より駒井蓮の表情の物語の豊かさよ。
彼女の悲しみ・迷い・孤独・束の間の安心が、その表情を通して僕の感情の中に入り込んでくる。

なんだか酔った言い回しになってしまったけど、要するに駒井蓮が良かった。この人のことを知らなかったので他のも観てみたいな。


定食屋でのやりとりに涙が止まらなかった。

「私はあなたを受け止めます。」

という意思表示がどれだけ人の心を救うだろう。
しゃび

しゃび