Osamu

ニーゼと光のアトリエのOsamuのレビュー・感想・評価

ニーゼと光のアトリエ(2015年製作の映画)
3.8
昨年2015年の東京国際映画祭グランプリ作品。

愛と社会性の話。

1944年ブラジルの精神病院に赴任してきた女医ニーゼ。脳の一部を切除して大人しくさせるロボトミー手術や電気ショックなど暴力的な治療が「最新技術」とされていた病院で、「これ、なんか違いますよね⁈」と立ち上がる。

タイトルにアトリエとあるように芸術を通じて患者自身の内側にあるものによる自然治癒を試みる。

心の内側にある無意識は言語に変換することによって意識となる。患者たちは言語に変換するのが苦手なので別の方法でアウトプットすればいい。その方法が絵画や彫刻なのだ。

ニーゼの患者、いや人間に対する愛を感じるとともに、社会性に対する信念を感じる。

少し前にインターネット上で話題になった人類が選択した社会性戦略の話には、なるほどと唸ったが、これはその話そのものだなと思った。

人間は1人では弱い動物である。野生に置き去りにされたらあっという間に肉食動物に喰われてしまう。だから、社会性を武器に結束して身を守り、誰かの発見、発明の利益をみんなで享受して進歩を遂げてきた。

進歩のためには従来の常識を打ち破らなければならないときがある。馬鹿にされたり妨害されながら信念を持った誰かがそれをやるのだ。ニーゼはその役を買っている。

そして、その役は誰にでも回ってくるチャンスがある。役の大小や分野などは様々だが、その積み重ねで人類は進歩してきた。精神疾患を持った人間もその役を演じるのだ。彼しか持ち得ない力で人類を守ってくれるかもしれない。

社会的弱者で可哀想だから守ってあげなくてはならない、のではない。そういう信念を感じた。
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