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ニーゼと光のアトリエのslowのレビュー・感想・評価

ニーゼと光のアトリエ(2015年製作の映画)
4.0
1940年代、精神病院ではロボトミー手術や電気ショック療法などが、劇的に症状を改善させる画期的な治療法として患者に施されていた。しかし、それらは多くの問題点を隠し、何より患者の人権を無視した、非道な治療法でもあった。これは、そんな行為がまかり通る医療機関に異を唱えた、女性精神科医ニーゼの物語。

『セッション9』とリンクする部分も多いけれど、そのテイストは全く違うものだった。丁寧に根気強く患者に寄り添い、内に彷徨っていた感性と人間力を絵筆を持たせることで芸術に昇華させようと導いたニーゼ。それは当時まだマイナーであった芸術療法と言われるもので、患者の人権を尊重する治療法として、その後世界に広く知られていくことになる。そして、これは男性社会に立ち向かう女性の映画でもあった。時折彼女が見せるキリッとした表情が、強く印象に残っている。でもこの2つのテーマを同時に描くのは難しかったと思う。下手をすれば患者を守る行為が主張の手段として見えてしまうので。その点本作は上手くまとまっていたように思う。また、ドキュメンタリー出身の監督ということもあったからか、是枝作品の雰囲気に近いものを感じた。

閉鎖的な世界であろうと、扉を叩けば、声を上げれば、きっと何かを変えられる。そんなニーゼの信念をこの映画に見た。
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