ナガノヤスユ記

鳥類学者のナガノヤスユ記のネタバレレビュー・内容・結末

鳥類学者(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

TIFFで観た。
無神論者の鳥類学者が経験する受難と転生。という字面が想起させるほど堅苦しくもなく、深い森の中で遭難した男の身に訪れる災難と出会いの数々は、幾つかの笑いさえも伴ってスクリューボール風冒険映画として肩の力を抜いて楽しめる。
くだいて言ってしまえば、主人公にとって、研究対象であるはずの鳥も、言葉の通じない異邦人も、障碍者も、遠くで待つ恋人も、聖アントニオも、すべては理解の範疇を超えた存在。自分の持ちものを次々失い身ぐるみ剥がされていく中で因果も分析できぬまま彼は突然の変容を果たし、超常的な力を手に入れる。
こうしたコントロール不可能な状況と覚醒の受容がこの映画のひとつの根幹だと思う。監督は今作を西部劇と表現したけれども、たとえば近頃のアメコミ映画とかともこの辺の姿勢は一緒だ。だから些か風変わりでとびきりロマンチックではあるけれど、これはJPR印の歴としたヒーロー映画でもあると思う。どこまでも個人的な映画だと感じる一方、この作品の睨む射程は実は驚くほど広範だと言えるのではないでしょうか。それこそまるで我々を見下ろす鳥類の眼差しのように。