2016年に製作されたアンジェイ・ワイダの遺作。
レンタルDVDでの鑑賞。
主人公である画家のヴワディスワフ・ストゥシェミンスキについてはまったく知らなかったのだが、ここのところワイダの作品を続けて観ていて、ポーランドの歴史的な背景は概ね把握していたので特に下調べなどはせずにDVDの再生を開始。
(ちなみにストゥシェミンスキについては日本語版のwikipediaのページは無いようだ)
本作の舞台は1945年、ロシア共産党影響下にある統一労働者党政権下のポーランドになる。
政治的な主張に同意しない者への厳しい圧政の状況が克明に描かれるが、一般的な意味での「物語」は存在しない。
主な登場人物は、ストゥシェミンスキと12~13歳に見える娘の二人。ただし、そこにあるであろう家族の物語や愛情といったことを声高に語ろうともしていない。
ワイダが描こうとしたものは、圧政下による芸術家の魂そのものであり、おそらくはそこに、画家を志したこともある自分自身も投影していたのだろう。
その意味で、本作は「アンジェイ・ワイダによるアンジェイ・ワイダ論」だと見る事も出来る。(些細なシーンだが、“選択を間違って”娘と二人でプロパガンダ映画を観るシーンもあった)
特に希望も救済も描かれず、悲劇に浸るカタルシスも無いが、観るべき価値のある映画だということは出来る。
ところで、2016年と言えば米国では第一次トランプ政権が始まった年であり、当時はまさか10年後の2026年に彼が二期目の大統領を務めているとは思いもしなかった。
その頃は、正直に言えば「芸術家に対する統制・圧政」なんてことは、一部の独裁国家とディストピア小説の中の話だけかと思っていたが、自由主義・民主主義を標榜する国々でも、徐々に現実味を増してきている。
2016年のワイダは、この未来を予期していたのだろうか。