残像の作品情報・感想・評価

「残像」に投稿された感想・評価

ryodan

ryodanの感想・評価

5.0
2017-07-06

A・ワイダ監督作。
素晴らしい作品。テーマというより作品として。一人の孤高の画家が体制に呑み込まれていく悲劇。なのに主演の演技は素晴らしいし、前半の栄光が失意に変わっていく過程も物語として、素晴らしく劇的。構図、色彩、カメラを感じさせない撮影、編集、音楽、作り手の感情を一切排除しても、なおその情熱は伝わってくる。彼ならこの作品を検閲されても、しっかりとした作品に仕上げる自信を感じました。そういう意味では特異な監督ですね。少しの希望も出さなかった、体制下では、そんなに甘いもんじゃない、まさにその通りです。主人公も承知の上。それでも反逆を貫く。学生が逮捕されても、心を動かさなかった。監督も心の葛藤を映さなかった。でもそこには、一瞬だけ曇る顔で充分に伝わる恐ろしさがありました。印象的な場面は、葬列の一番後ろを歩く娘。雪の白、葬列の喪服、そして少女の赤。そこまでは誰でも考え付くと思うんだけど、そこに赤を着なければならなかった少女の必然性。「これしか着るのがない」って台詞。スゴイなって思いました。近年、稀にみる傑作です。監督、お疲れ様でした。
芸術に全体主義を求めるなんて酷すぎる。
重苦しさが伝わる良い映画。
無智無学な人間たちによる新しいもの、気にくわないものに対する排他性。

この排他性と戦うことでしか認められることはない。

暴力性の塊になった集団に排他の対象にされた時、戦い衰弱していくか、言いなりになるしかない。

そんな中戦ってきた先人たちによって表現の自由がある。
あいちトリエンナーレのあとだと全然他人事だと思えない、芸術と政治について。よかった。
megさん

megさんの感想・評価

2.8
重くるしい。

残像… 目に見えているものは真実なのか、難しい理論なのだが、芸術を志ざす学生たちを惹きつける 芸術の芯のようなものを教授は示してくれていたのだろう。 作品はじめの辺りの教授と学生の様子は明るい画面できれいに描かれていた。

しかしそれ以降はほとんど彩度のない街や人ばかり。全体主義の恐ろしさ。
振り回され従っている民衆と、抗って自滅していく芸術家のボロ布のような姿。生きるために主義を曲げたのに間に合わなかった。

重くるしい。
ayk

aykの感想・評価

4.5

このレビューはネタバレを含みます

スターリン体制下のポーランド人芸術家ストゥシェミンスキの受ける迫害と排除を描いた作品。

以下歴史的背景のメモ。第一次世界大戦中に成立した旧ドイツ帝国の傀儡政権を戦後クーデターにより(ストゥシェミンスキがシャガールとともに闘ったとされるのはおそらくこの時期)、共和制国家を樹立することに成功するも、第二次世界大戦下において一時ナチスドイツによる占領と国家消滅を経験したポーランドは戦後国家としては復活を遂げるも、今度はソビエト体制に汲まれ、共産主義国家となった。芸術にまでも全体主義リアリズムを強制する状況であった。

「物を見ると目に像が映る。見るのをやめて視線をそらすと、今度はそれが残像として目の中に残る。残像は形こそ一緒だが補色なんだ。残像は、物を見たあと網膜に残る色なのだよ。人は認識したものしか見ていない。」

この映画の冒頭で学生に語りかけるシーンだが彼の芸術思想を最も的確に表している。人は世界を目で視認し、脳で認識する。逆に言えば、脳で認識しなかったものは見てはいない。認知脳科学などでもよく耳にする話である。
作中、文化大臣が芸術家が描くべきものについて熱く語るシーンがあるが、彼はどのように"見"ていたのだろうか。

「政治と芸術の境界線がなくなる。」
思うに政治が社会の枠組みを作り上げ維持するものだとすれば、芸術がいわば政治を評価するものであったり、国家に属する民衆の心情を体現するものではないかと思う。いわば良識の府だ。決して政治の肩を持つものであるべきではないと思う。

「芸術家を苦しませる方法の一つ目は攻撃すること、二つ目は無視すること」
これも彼の発言であるが皮肉なことにその彼自身が社会から受けることとなってしまう。

芸術家としての信念を貫く様、権力を前にした時の個人の無力さ。「どんなことでもするから仕事はないか」とストゥシェミンスキが美術館長に言うシーンではそこはかとない虚無感を感じてしまった。どんなに信念が固くとも生きるということの生臭さよ。

映像はとても芸術的であった。特に色彩が綺麗。雪を被った墓場で青く染めた花を手向けるシーン、ニカが雪の降る街中で赤いコートを纏って走るシーン、ストゥシェミンスキの部屋に学生の絵がわぁっと飾られるシーン…撮影監督は大好きな作品、『戦場のピアニスト』を手掛けた監督であるらしい、納得。

この夏ポーランド旅行に行くため見ようと思った作品であるが、非常に完成度が高く、よき作品だと思った。
みんと

みんとの感想・評価

3.8
「残像」とはものを見た後に網膜に残されるイメージを指す、、、

第二次世界大戦後のポーランド。
スターリン主義による全体主義体制がもたらした荒廃と爪痕の「残像」を同国画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの生涯を通して描かれた作品。

国家の思想が芸術分野にまで侵食した時代に如何なる逆境に立たされようともブレない信念を持ち続けたストゥミンスキの芸術家魂に心打たれる。

映し出される作品は勿論、映像や構図にまでアートを感じまた何者も犯すことの出来ない芸術と言う世界に於いて生き様そのものが芸術的にすら感じた。

ジャケの色彩に目が止まり何の気なしに観た今作にポーランド史の一部を学ぶ事が出来、また無知な芸術分野を僅かながら理解し感じとる事が出来た。

今作が遺作となったアンジェイ・ワイダ監督作品、他も観てみたいと思った、
冒頭で丘から転がってくる芸術の教授。そしてそれを追うように転がる生徒たち。そのあとの生徒の眼差しも含めて、オープニング5分だけでこの教授が生徒たちにとってどのような存在なのかが存分に伝わってくる。
ただそのあとの展開がただただつらい。表現の自由が奪われた社会情勢のなか、主張をつづけるも、容赦なく社会から排除されていく様子が本当につらい。
社会主義リアリズムについて無知すぎたので、勉強になりました。
寿都

寿都の感想・評価

4.7
全体主義社会がどんなものか痛感できる

他の反体制・反戦映画とちがい、処刑や拷問、虐殺など直接的に人命を奪う"残虐性がない"。にもかかわらず、それらを上回るくらい、観ているのが辛く重い闘いだ。(私は過去にカティンの森を数分で棄権している、耐える気力がなかった)
「凡庸な悪」とはハンナ・アーレントはほんとに上手く表現したものだなと思うが、力を持ってしまったとんでもないバカ達(加えて国民ほぼ全員も)との勝ち目のない、くだらない理不尽バトルに人生を奪われるのだ。嫌すぎる。

娘の存在が、この鈍色の世界の差し色?(笑)となっているアート作品とはちがった、暖かい彩りを映画に添えていた。目を奪う、只者ではない役者だ。(ちなみに、あのモンドリアン的カラーの視覚効果がなければこの映画をなかなか手に取らなかっただろう)

彼女は"父親側"でありながら"母親側"であり、"国家側"でもあり、またいずれでもない。つねに自分自身で考え判断し、自分が出来ることに懸命に、堂々と生きていた。超人である。全体主義に従う人々の中にも、当然ながら様々で複雑な個人の在り方があったのだろう。
無知な子供ゆえの逞しさとも言えるが、おそらく父親をこえる立派な人格を持ち、残された希望として輝いていた。

映画の中で見るとイマイチだったけど、検索したらストュシェミンスキのデザイン、どれも凄まじく可愛い。バウハウスのグラフィックをより上質にした様だと感じた。
こんなに重い史実と、モダンなアートが融合する映画なんてオンリーワンだし、映画ならでは・ヨーロッパならでは。うっとり。そのうえに、芸術でイデオロギーを表現することに人生をかけた監督の遺作である。この重厚な洒落感は我が国ではまずお目にかかれない(悲)。あ、でも森達也監督あたりなら行けそうだね(何様)。
傑作です。

「物を見ると目に像が映る。見るのをやめて視線をそらすと、今度はそれが残像として目の中に残る。残像は形こそ一緒だが補色なんだ。残像は、物を見たあと網膜に残る色なのだよ。人は認識したものしか見ていない。」

「地下水道」「灰とダイヤモンド」など、数々の名作で知られる巨匠ワイダ監督の遺作。

第二次大戦後、ソヴィエト連邦の影響下におかれたポーランド。カンディンスキーやシャガールなどとも交流を持ち、情熱的に創作と美術教育に打ち込む前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ。しかし、スターリンによる全体主義のもと、ポーランド政府が要求した社会主義リアリズムに反発したため、芸術家としての名声も尊厳も踏みにじられていく。

「イデオロギー欠如の芸術は労働者の敵」大臣が放った言葉が印象的だった。芸術とは常にリアリズムを超越できる存在でなければならないと思う。そこに政治的概念は発生しない。してはいけない。

ストゥシェミンスキの娘が赤いコートを身に纏っていたのが意味深だった。まあ赤には何の意味も無いから。でもストゥシェミンスキが墓に添えた花は青だったな。

ぜひぜひ
>|