こうん

タリーと私の秘密の時間のこうんのレビュー・感想・評価

タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)
4.2
このクソ旦那!と思って心の中で大根をフルスイングしたんだけど、それはどうやら自分の後頭部にヒットしたようで、ぐわんぐわんするなぅ。

シャーリーズ・セロンの肉体改造以外に娯楽性が見当たらない地味な映画なんだけど、1人の女性が歩みをひとつ進めることができた様を丁寧に魅せる、ジェイソン・ライトマンの円熟の佳作でした。

セロン演じるマーロのキャラクター描写というか、彼女がどのように育ち生きてきたかを端的に詳らかにしていくテリングが上手くて、マーロという女性の感情旅行にすっかり誘われてしまった感じです。
人生の一コマを詩的に抽出した普遍的な物語でありながら、ライトマンお得意のシニカルで即物的なコメディとしても秀逸でしたね。
異端の脚本家ディアブロ・コディのシナリオが実感のこもった感じで優れているのだろうし、サクサクと無限空間的に語っていくテンポ特に前半の編集が良かったと思う。

子育てや出産をめぐる描写のリアリティ(もちろん誇張もあるでしょうが)は、エゲツなくて面白かった。
出産後のオムツや搾乳機(って言っていいのだろうか?)は「ヤング≒アダルト」のヌーブラに匹敵するリアリティです。

旦那のボンクラぶりは笑っちゃうんだけど、その無神経さはひるがえってみると、おれにもありますありました、ごめんかあちゃん。

まぁなんにせよシャーリーズ・セロンの説得力たるや!体重増やすのはまぁもう驚かないとして(とはいえ女性が意図的にあの体型にするのは役者魂としか言いようがない)、息子が飲み物こぼして濡れたシャツを脱いだ時のあの死んだ表情とか、内気な娘に助け舟を出すときの神々しさや、ジョギングのシーンの笑える動きの見事さや、もう千両役者と呼ぶしかない。
タリーと愛おしい赤ん坊を抱き渡すシーンなんか、事の真相を知った今思い出すと涙が出てきます。

一応ナイトシッターのタリーをめぐる秘密というか仕掛けがあるんだけど、それほど派手な作劇ではなくて、様々の場面を思い起こすと酢昆布のように味わい深いドラマになっていたと思います。

個人的にはセロンの兄貴まわりの描写が意地悪ながらもちゃんといいやつで面白かった。家で箸使って日本食食う、という意識高い系描写はタマランチ会長。ヘイSiri、ヒップホップかけて、だって。
その兄貴とセロンの旦那の義理の兄弟が、互いに嫌われていると思っているのが、ちょっと気持ちわかるわい。

アラフォーとしたは身につまされるお話だったし、映画としても上等で、いい気分です。
まだ後頭部がぐわんぐわんするけど。
全然違う映画だけど「ゴーン・ガール」を思い出したりもしました。

あと、劇中でルー・リードの歌声が流れる映画にハズレなしのマイセオリーは継続中です。
こうん

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