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タリーと私の秘密の時間のつのつののレビュー・感想・評価

タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)
4.3
【シャーリーズセロン×イレイザーヘッド】

ジェイソンライトマン上手いな。
登場人物にとっての「世界の見え方」を観客に体感させるのがとても自然で押し付けがましくない。
それはいくら家族や友人でも真の意味では共感し得ないもの。
このテーマを描くとしたらリンチ的な悪夢・狂気の世界にすることもできるんだけど、ジェイソンライトマンはその人の生き方(厳しい現実に耐えるにはこれしかないという切迫感も込みで)を決して否定しない。

本作の白眉とも言える育児悪夢描写ははっきり言って今年一番のホラーだ。
全く逃げ場のない子供とのドライブ。
赤子を宿し膨れたマーロのお腹はクローネンバーグ的な生理感も含めて不気味に映る。
いざ第三子が産まれたなら凄まじい反復演出で徹底的にマーロの神経衰弱を描く。
この時点でもう正視に耐えかねないレベルまで観客にマーロの地獄を追体験させるからこそ、救いとして現れるタリーが尊いものに見えるし、事の真相を知るとタリーとマーロの関係の切なさが身に染みる。
劇中で何度も二人が時間を共にする夜が本当に素晴らしい。
それを「秘密の時間」と表す邦題も凄い。

勿論マーロは美しい過去にすがってるだけだ。
マンハッタンに向かい自転車に乗り出してからは痛々しさと映画的飛躍の気持ちよさで変な涙が出てくるぐらいだ。
でもジェイソンライトマンとディアブロコディは、マーロの弱さに最後まで寄り添う。
過去を捨て何気ない日常に埋没しろというメッセージに終始していないのは、ラストでまだ窓の外を見るマーロの視線が雄弁だ。
夫や子供が彼女のことを励ますけれど、マーロはあの夜のことを「完璧」だと思い続けているんだ。
クソッタレな現実にぶつかり続けてたらいつかぶっ壊れる。
その前に何としてでも自分の救いを見つけるしかない。
それが無理なら自分ででっち上げても構わないし、それは心無い他者からの浅薄な言葉に汚されていいものではないという映画に思えた。

マッケンジーデイビスのチャーミングさも忘れ難いけど、やはりシャーリーズセロンの演技の幅には恐れすら抱いてる。
何でフュリオサ・ローレンブロートンの後にこんな役ができるんだ。
激太りだけでなく、心の底から疲れ切ってる憔悴具合を演じきってる。
最高の選曲はカーリーレイジェプセンの「call me maybe」でした!
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