ルイまる子

タリーと私の秘密の時間のルイまる子のレビュー・感想・評価

タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)
4.0
シャーリーズ・セロンはすごい!心底頭が下がる!プロ根性が半端ない。あれだけスーパーモデルの美貌ながら決して美しい女の役を演らない。痛く傷つきもがき苦しみダサくて醜いリアルな女性を演じる。「ヤングアダルト」では負け組の女を痛々しくもリアルに演じ、マッドマックスではかっこよかったがボロボロに傷ついた片腕のない女戦士。今回も15kg暴食で増量し挑んだらしい。最初まるでゾウかカバみたいな彼女の姿を見て、ああ、恐らく出産太りの自分の身体を「再利用」し妊婦役やったのね、なんて安易に見ていた自分が恥ずかしい。ロバートデニーロ女版か、はたまた最近はそういう自由自在に痩せ太りを繰り返すプロ根性の俳優さん達がデ・ニーロ以外にもいるってことか。しかし並大抵の精神力ではないだろう。

本作は、妊婦の生活もリアル、障がいのある長男の後また子供を作る気力も大したものだが、3人目を出産直後の生活だ。もう忙しすぎる肉体的にも限界遥かに超え、頭の中は殻、ただただ装置になり授乳、機械的に送り迎え、家事、寝るを繰り返す物体みたいになった彼女の日常もリアル。そして、、、その先に何が起こったか。ネタバレになるので書きませんが最後驚きの展開に。。

出産子育てを経験した者には正にこれが出産後すぐの生活だなとハードな日々を懐かしくも思い返す。授乳合間にジゴロのリアリティーショーを馬鹿みたいにぼやーと眺めている彼女もよく分かる。私は確か長男の時オリンピックで、夜中授乳の際はヨットの競技をぼーっと何時間も見ていた記憶があります。自分が牛か何かの授乳自動装置と化した状態で頭の中では何も考えていない、ただただ物になり赤ちゃんの状態だけに神経を集中。次男の時は余り覚えていないのでテレビも見てなかったのかそれとも長男の時と違い、子育てに慣れていたので夜中のことも特に記憶がないのか。これが3番目4番目になると殆ど自動装置と化し、眠気も感情も何もなく当たり前に出来ていくんでしょうかね笑 しかし健康な状態とは言えませんね自分への興味も感情がなくなってるんだから笑

お母さんになるのは幸せなことだし、子育てもこれ以上幸せなことはない。しかし、同時に疲労困憊し過ぎて一体自分は何がしたいのか何をしたかったのか、冷静に考えることすら出来ず人間としての感情は奪われていきます。

印象に残った言葉;夜シフトの乳母、タリーがとても賢い事を言う。それにマーロが驚いて「あなたって私よりずっと若いのに賢い事を言うのね」「いいえ、26歳だからこそ考える時間がいっぱいあるのよ。あなたは自分について考える時間が全くないから考えれないだけよ」。

本当にそうだ!
周りに助けてくれる人がいなければ(近所に母親が居る、ベビーシッターを雇える、ご主人が手伝ってくれる等の女性の方が珍しい筈だ)今振り返って子育ては重労働で、たった一人でやると死ぬ、人間としてまともな時間ではない。当たり前だが周りは当然だと思っている。皆やっているけれど人間離れした離れ業で、本人は人格も仕事も「体型」も(カバみたいになってその後痩せれる人も居るがなかなか産後体型は元には戻らない。何もかも失くしそれほど感謝もされない。本作は真正面から出産直後の母がいかに大変かその問題を取り上げ世の中への理解を喚起しているところが素晴らしい。クラブで遊ぶシーン、おっぱいが張りすぎて死ぬほどの痛さトイレで絞るシーンめっちゃリアル。母親ならあの経験一度や二度はある筈。

尚、気になったこと。子どもたちが通っている(兄の口利きで入れた)私立の名門っぽい幼稚園の園長先生は黒人、ハイソな兄のインテリっぽい奥さんはアジア人、そして労働者階級の主人公はピカピカの白人。。。こういう逆転現象が今のアメリカなのか?ちょっと不思議な感じがした。
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