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ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドンの小のレビュー・感想・評価

4.9
ミージカルの舞台を映画化した作品の初鑑賞にして素晴らしい体験。何度かゾクゾクして鳥肌が立った。大人数による迫力の大舞台、圧倒的な歌唱力、物語のスケール感の大きさ。超一級のエンターテインメント。劇場で観るのにはかなわないだろうけれど、映画でもかなりの陶酔感を味わえる。

ミージカル鑑賞歴は劇団四季の『美女と野獣』『ライオンキング』の2作のみ。それでもミュージカルのエンターテインメント性の高さに驚いた。当時の自分的感想を一言で言えば「ディズニーランドを凝縮した感じ」。

大勢の人が舞台いっぱいに繰り広げるダンス・アンド・ミュージック。心地よい音を体に響くような音量で聴くと、ぼーっとしてきて、夢の中にいるような感じになってくる。観せる側に相当の力量がないとシラケてしまうけれど、超一流の舞台はまさしく「夢の国」。

(以下、ストーリーを素で楽しみたい方はスルーが吉です。)

ベトナム戦争末期のサイゴンのナイトクラブで働く少女キムとアメリカ大使館軍属の運転手クリスとの悲恋を描いた物語だけれど、戦争に翻弄される人間模様はただただ切ない。母親の「尊い犠牲」という共感力抜群のテーマも胸を打つ。

ナイトクラブ「ドリームランド」を経営するエンジニア。フランスとベトナムの混血児で、その役柄から当然いかがわしさを感じるキャラクターだけれど、アメリカへ行くことを夢見る影の主役。

過剰な自意識、過剰なアメリカの理想像を表現したかのような演技は「サイコー!」と叫びたくなるようなもの。

主人公のキム。ベトナム戦争で家族を亡くし、17歳でサイゴンに逃げてきた。元兵士ながらも本国の居場所がなく、ベトナムに逃げ戻ってきたクリスと出会い、愛を誓う。サイゴン陥落でクリスが不本意にも帰国した後、彼との息子タムを産み、クリスの帰りを信じて待ちわびる。

うぶな少女、大人の女性、強い母という異なるタイプの女性像を歌い分ける歌唱力がとにかく見事。特に母の歌声は胸を打つ。

コールガールのジジの歌唱力もナカナカで、舞台の前半、まず観客の心をつかむ大役をしっかり果たしている。

物語がヤバい。誰も悪い人はいない、悪いのは戦争。戦争によって孤独にされ、引き裂かれ、大切なものを守るため誰かを傷つけ、そして…。

全部イイ。スキがない。強いて言えば、ここが実際の舞台でないことだけ。もっとも、2人の人物が別々の場所で演じるシーンを並べて見せるなど、映画の良さも随所に発揮されていて、舞台を観た人なら、映画も存分に楽しめそう。

ラスト30分ほどグランドフィナーレの模様が映し出され、初代の演者の方々が続々と登場。年を重ねたからこその味わい、ユーモアに、キャストとの共演を果たすなど見どころ満載。2500円は安いとの意見多数だけれど、同感です。
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