ベルサイユ製麺

グッバイ・クリストファー・ロビンのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.5
今尚、世界中で広く親しまれる超有名児童文学『つつみのしたはなんだぶー?』(←インパルス堤下さん作。実在!)…では無くて『くまのプーさん』の誕生の裏側を描く実話物です。映画全体のトーンは『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』にとても近いですね。

一度目の大戦の前線から帰還した人気作家ミルンは、その悲惨な体験から平和を訴える作品の著作に挑むが、“強い光や短い破裂音に怯える”、“羽音の幻聴に悩まされる”などのN.W.O.B.H.M…では無くてPTSDの兆候もあり、集中出来ず創作は思うように進まない。
やがて妻ダフネが男の子を出産。一家は良い環境で子育てをする為に都会の喧騒を離れサセックスに引っ越す。
ミルンは、息子クリストファー・ロビンと彼のぬいぐるみと一緒に豊かな自然の中で遊んだ経験に着想を得て児童向け作品“くまのプーさん”を書き上げる。“くまのプーさん”は瞬く間に大人気になり、今もなお広く親しまれている。
…というのが、プーさん誕生物語のライトサイドです。しかし現実にはそう簡単に事は運ばなくて…。

ミルンの妻ダフネはそもそも娘が欲しかった。その事が影響してか、ダフネはロビンと真っ直ぐ向き合わないし、衣服やおもちゃの選択もあんまり男の子っぽく無いものばかり。
ミルンはそもそも子供との付き合い方が分かって無い風。子供を持ったことによる意識の更新みたいなものが無かったのか、親になり損ねている感じ。こんな二人なので、ロビンの世話は専らナニーのヌーに押し付けます。急に“ナニーのヌー”とか書かれても、頭に浮かぶのは紫の毛モジャの巨体のモンスターとかかもしれませんね。ナニーとはイギリスに於ける子育てを職業とする人の呼び名だそうです。ヌーはアダ名でオリーブという女性です。ロビンは必然性に一緒にいる時間の長いヌーにばかり懐き、ダフネはその事が面白くない。
…そもそもダフネがなかなかのポイズン・マザーでして、元より田舎になんて来たく無かったので、「壁紙買ってくる」とか言ってロンドンに出かけ、長らく留守にしちゃう。家事もしない。ロビンに構いたい時だけ好きなように構う。それでいてロビンが反抗的だとヌーに当たる。ダフネはマーゴット・ロビーが演じてるのですけど、正直ハーレイクインの時より圧倒的にヒール感があって、…ちょっと苦手になりました。
プーさんの原型になる物語は、そもそもロビンの為に書いていた物なのですが、ダフネが勝手に出版社に持ち込むという“ジャニーズ応募あるある”みたいなきっかけで世に出ることになります。…この時、主人公を実名のクリストファー・ロビンのままで出してしまった事が後に悲劇に繋がります。
“本物のロビン”に会いに押し寄せる人々。子役タレントのようにあっちこっちのイベントに引っ張り回され、更に学校では…と言った按配で、ロビンの為の物語が、逆に彼を永きに渡り苦しめるようになります。この流れの責任はミルンたち両親にあると言えばそうなのですが、事前に弊害まで予見するのは難しくて、避け難かった不幸な事故とも言えそうです。
この物語から何を学べるかと言われるとちょっと難しくて、“人の心を軽く見積もってはいけない”とか“加害者の意識はなくても被害を受ける者は居る”とか、一般的且つ人間関係にネガティブ気持ちを抱いてしまいそうなものばかり思い浮かんでしまうのですが、最後にはちゃんと救いも有ります。
“人間関係は修復不可能ではない”って感じです。

この映画を観ちゃうとプーさんに限らず凡ゆる創作物の裏側、水面下のバタ足が気になってしまいそうですが、そもそも作り出すという行為の大変さに比べると受け止める側の負担が少な過ぎるよなぁなんて思ってたところなので、これを機にちょっと襟を正して鑑賞に臨もうと思いましたね。最低限、柿の種を齧りながらの鑑賞は慎みたいです!(一週間程で忘れる誓い)