SatoshiIto

僕とカミンスキーの旅のSatoshiItoのレビュー・感想・評価

僕とカミンスキーの旅(2015年製作の映画)
4.0
久々、下高井戸シネマにて。
『僕とカミンスキーの旅』。

マティス最後の弟子にしてゴッホと交友を深め、ポップ・アートの時代に盲目の画家として一世を風靡した伝説の画家、カミンスキー。
そのカミンスキーの晩年、彼の伝記を書きたいとする青年との交流を描いたロードムービー。

とはいうものの、そんな画家は実在しない。作中では本当に盲目かどうかも怪しい。
全くもって人を食った映画。登場人物も一筋縄では行かない連中ばかり。

監督は『グッバイ・レーニン!』を撮ったヴォルフガング・ベッカー。伝記をものにしようとする野心家の主人公も『グッバイ』の母親思いの青年と同じく、ダニエル・ブリュールが演じ、12年ぶりのタッグが話題だったようだ。。

『グッバイ・レーニン!』では東ドイツ瓦解後も、架空の社会主義国家ドイツをでっち上げようとする主人公を描いていた。何度も観ている愛おしい作品。
それまで正しいと信じていたものが一瞬にして覆る、その「軽薄さ」をアイロニーを込めて描いた良作だったが、今作は「偉大なる芸術家」をでっち上げ、作中色々な映画をオマージュしている。

みんな芸術とか映画とか有難がっているけど、本当にその価値なんて正しいのかと。そんな価値なんていつだってひっくり返るぞと。何が素晴らしいのか、その価値はちゃんと自分で考えろよと。ちょっと前の佐村河内氏の騒動が想起される。

主要人物たちの演技も素晴らしいのだが、白眉はカミンスキーがかつて愛した女性を演じた、チャップリンの娘さん。「老いる」ということの哀切さを父親譲りのペーソスで演じている。
あと、黒澤映画には全面的な賛意が観て取れる。

世間的な評価は今ひとつみたいだけど、考え所満載の佳作でした。
SatoshiIto

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