アガサ・クリスティの代表作の一つであるミステリー小説をケネス・ブラナーが製作・監督・主演した本作は、今の時代に合うようにアップデートしたものになっている。
原作小説は過去にテレビドラマを含め映像化されているが、代表的なものとしては1974年製作のシドニー・ルメット監督作品になると思う。
ケネス・ブラナーによるこのリメイク版は、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、ウィリアム・デフォー、デイジー・リドリーという錚々たる主演級のキャストが話題になっているが、恐らくこのキャスティングは、シドニー・ルメット監督版のアルバート・フィニ―、リチャード・ウィドマーク、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンスという豪華キャスティングを意識したものだと思う。
骨子となる内容や展開、そして結末は原作やシドニー・ルメット監督版に沿っているが、ケネス・ブラナーらしい演出やアクションシーンをはじめとした新たなシーンが付け加えられている。
特に顕著なのがケネス・ブラナー演じるエルキュール・ポアロで、原作をはじめ、その特長は小男で少し太め、卵形の頭に黒い髪、大仰に横に張り先が上向きにカールした口髭がトレードマークになっているが、今までのポアロに比べスタイリッシュでアクティブになっている。
だから過去の作品では列車内という密室で繰り広げられていた推理劇が、本作では車外に飛び出して展開する。
更に容疑者である乗客たち夫々を過去のエピソードで浮き彫りにしようとしている。
結末は変わらないが、ポアロがそこに至るまでの心の揺れや、「最後の晩餐」を思わせるような推理の開陳シーンがエモーショナルで印象的だった。