八木

オリエント急行殺人事件の八木のレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
2.9
 この原作なら予習しなくてよいと思った(読んだ)。原作をこのタイミングで初めて読んだ人間の感想としては、どの媒体かで出会う一発目のオリエント急行殺人事件は、多分最高に面白いものなんだろうな、ということです。
 この映画の場合は、原作の超シャレオツエンディングを、文字に起こせば同じタイプの幕引きになっているにも関わらず、ポアロのパーソナリティを語ることで違った意味を持たせることにある程度成功している点で、原作とはまた違う価値を持っていると思います。ただ、「違う切り口で語りとうてしゃあない」感がかなり先行してしまっているせいか、事件自体の説明が結構薄味なんですよね。意図的にそうしたのかもしれないけど。そうなることで、ミステリー史上に一撃かましてる種明かしに加えた「ポアロが持つ価値観の説明」が相乗効果を生んでいるとは僕には思えませんでした。やりたいことはすげえわかる。でも、足りなかった気がした。
 例えば僕は始めに「薄いな」と感じてしまったのは、死体の発見時に、死体の状態を全く見せなかったところがあります。この話って、死体の刺し傷の数とか状態が超重要になってくるんです。でも、残虐さに配慮したんだかどうなんだか、発見時の衝撃をやたら静かに演出してて、全然キャッチーじゃない。もしかしたら死体は見せずに医者の診断だけで話を進めるのかなと思ったら、時間経ってから普通に映すんですよ。そのタイミングもあんまり意味がわからない。ていうかね、誰が死んだか誰が生きるかもちろん書きはしませんけど、ミステリー見に行った人間なんだからどう死んだかは見たいでしょうがよ。原作知ってたら「あの人の死体見たい」ってなってたと思う。このニーズの高まりに対応してなかったのって、事件全体を結構薄味にさせてしまってた。
 そのほか、「わざとらしい証拠の数々」「繰り返される質問コーナー」の部分もめちゃくちゃカットしたり並行でさらっと省略してたりします。僕は直前に原作読んでたから把握してたけど、ガウンのくだりはギリギリ、ハンカチのくだりなんかこの映画一回見て意味つかむのは無理じゃないかと思う。
 ただ、さっき書いたことではありますが、原作がすでにポアロというありもののキャラを使用して事件とその解決をエンタメとして煮詰めて見せる機能があること(その結末が画期的であることを含めて)に対して、こちらは、まずポアロがどのような人物であるかをわりとタイトな時間で振りを効かせて、同じ結末なのに解決のその先を見せることで明らかに色味を変えている点で、価値のある映画だと思います。微妙に原作と設定も違うので(意味があるのかはわからんんが)、バリエーションの一つとして楽しめるのではないでしょうか。
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