アガサ・クリスティーのミステリー小説原作の映画化。
1974年にも映画化されているようでいわゆるリメイク作品のようだ。
原作も読んでいなければ74年版の映画も観ていないので、まっさらの状態で観たのだけど、長らく語り継がれる名作としての古典的プロットと重厚なレイヤーに魅せられた。この原作が発表されたのは1934年。推理小説の黎明期～黄金期に作られた作品なので、こういった密室ミステリーの元祖的存在ともいえるのかな。
それでもアッと驚かせる結末や叙述トリックなどは今なお有効だし、以降のミステリー作品へ多大な影響を及ぼしていることは想像に難くない。
小説体系に詳しくないから下手なことは言えないけど。
監督・主演はケネス・ブラナー。監督、俳優どちらも高い評価を得る彼を中心に据えつつ、脇を固めるキャストも非常に豪華。
本来主役級であるジョニー・デップを早々に退場させられるのもこの映画の潤沢な予算を感じさせる。ウィレム・デフォーの扱いの雑さも笑う。
こうした名優たちの円熟の演技と作り込まれた丁寧なセットもあり、狭い車内は非常にゴージャスさを漂わせた整った空間となっている。
展開は軽やかなテンションで、複層的な語り口を重たくさせないバランスは娯楽映画としては良かったと思う。
沈痛なノリで進められてもこの物語はシンドイだろうし、ケネス・ブラナーのポアロのシニカルさはよくマッチしていた。
題材は殺人事件だがシリアスになりすぎず、むしろシットコム調ですらあると感じさせる。
これといったメッセージ性を持たせず、アトラクションであることに振り切った姿勢は、個人的な映画の好みとしては外れていたけども、金曜ロードショーで晩酌しながら観る分には十分に有用だった。『ナイル殺人事件』もテレビで観るくらいでいいかなあ。
