JunIwaoka

ビッグ・ビッグ・ワールドのJunIwaokaのレビュー・感想・評価

ビッグ・ビッグ・ワールド(2016年製作の映画)
4.5
2016.10.29 @ 第29回東京国際映画祭

朦朧とした意識のズルハが夢想する大きな世界。それがもし物質的に満たされた世界だとしたら、そこに平穏はあるのかな?不遇な出生により帰る家を持たない二人が逃げ込む森。エストニア映画の「ルクリ」でも象徴的だったように、森という俗世界と隔離された場所がもつ神聖さが映像美とともに昇華され、それがただの現実逃避でしかなかったとしても二人だけの世界は理想郷のように思えた。鳥の鳴き声、飛び跳ねるカエル、忍び寄る蛇、人の営みがもともとは自然の一部であること考えさせられる。監督自身、山羊や水牛を父や母と象徴することに意味はないと言っていたけど、森自体が帰るべき家であり、川が分け隔てる世界が夢と現実という皮肉なんだろうな。現実の俗世界で彼が失ってしまった糧が、自然の摂理によって理想郷を衰退させてしまい、衰弱していく彼らに思いを寄せることしかできない。凶行からはじまる彼らは許されるべきではないけれど、同時に社会の犠牲者なんだと深く感嘆する。ビッグ・ワールドはこの社会にあるのだろうか。
昨年の「カランダールの雪」といい、トルコ映画のとても静かに強く訴えかける平穏を求める思いの深さに胸がうたれる。
映画には関係ないけどRadioheadの「All I Need」と「Sail to the Moon」が鑑賞中頭を離れなかったな。
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