horry

ブルーム・オブ・イエスタディのhorryのレビュー・感想・評価

5.0
フライヤーの印象とはずいぶん異なる作品。歴史と向き合う方法を新しい視点で描いた意欲作だと思う。

ナチ親衛隊の祖父を持ち、ナチ・ファミリーであるからこそホロコースト研究に没頭しているトト。
ナチスの犠牲者となったユダヤ人の祖母を持ち、ホロコースト研究を志すザジ。

ホロコーストによるドイツ人とユダヤ人という歴史の生と死。二人はその歴史に対峙している。けれど、トトは象徴的な肉体の死を生きていて、ザジも強く生きる力を持ちながら衝動的な死に取り憑かれている。

二人の接点である教授の死によって、彼らは近づくことになり、アウシュビッツを生き残った女優の言葉に導かれるような旅先で、お互いに惹かれ合っていることを認める。

トトの肉体の死はザジによって回復し、トトからザジは生命を二度受け取る。

いくつものエピソードで繰り返される生と死のやり取り。そして、止まっていたものが動きだす。それは、過ぎてしまった過去を、現在のものが受け取るということだ。

ホロコーストという凄惨な歴史と向き合うトトに、ホロコーストの被害者たちが「ユーモアを持て」と告げる。
繰り返してはならない悲劇だが、生き延びたものはそれを抱きながら「今」を生きている。リフトアップをしたり、セックスをしたり、冗談を言って笑いながら。
沈痛な顔でホロコーストを語ることだけが歴史と向き合うことではない。
昨日咲いた花を受け取って、今を生きること。そういう向き合いかたがある。

ナチやホロコーストを扱いながら、ユーモアにあふれ、今の人々がどうやって歴史と向き合うかを描いた、稀有な作品だと思う。
horry

horry