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台北ストーリーのkouのレビュー・感想・評価

台北ストーリー(1985年製作の映画)
4.0
《台北の息遣い》
「牯嶺街少年殺人事件」のエドワード・ヤン監督。「恐怖分子」の前年に撮りあげた長篇第2作で、ホウ・シャオシェンが自宅を抵当に入れて完成させたといわれる作品。今回。エドワード・ヤンの没後10年としてデジタル修復され、こうして劇場で見ることができるようになった。

今作は台北の佇まいがとても印象に残る。開発され、変貌を遂げる都市と、そこにいる二人の男女を描き、台北という町の移り変わりを見せる。台北の街の雰囲気が見ている側に伝わるほど、映像に切り取られている感覚があり、その乾いた作風と相まって独特の世界観がある。

エドワード・ヤンという監督は本作で、開発され、消えていく街を描くことを目的としたという。その試みは見事に成功している。古い街並みの空気感を切り取っているのだ。そしてそれは、主人公であるアリョン(ホウ・シャオシェン)の姿に象徴されている。彼は過去の街、そして自分自身にとらわれ、そして留まっている。変わりたいが変わることのできない姿、その苦悩は一歩引いた映像で描かれる。それに対して彼女であるアジンは未来へ進もうとする。それでも、アリョンはしがらみから、進むことができないのだ。彼はもがき続ける。そしてその結末の切なさ、後味の絶妙さに唸らされた。

台湾という場所の息遣いを感じられる一作。そこで過去にとらわれた男を描いた、とてもビターな映画だと思う。印象に残るシーンが多く、特に富士フィルムのネオンをバックにした映像は印象深い。芸術的なシーンだと思う。素晴らしかった。
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