ちろる

台北ストーリーのちろるのレビュー・感想・評価

台北ストーリー(1985年製作の映画)
3.7
職を失ったキャリアウーマンアジンと子供っぽい理想主義を掲げて生きるアリョン。
いつも手持ち無沙汰なアジンの煙草の煙が、2人の未来に靄をかけているようで、常に満たされず物悲しい雰囲気だった。
とてもシンプルな幼なじみ同士のカップルの恋愛のどうしようもないすれ違いを淡々と映し出しているだけなのだが、最後までじわじわと引っかき傷をつけるようにして見せるヤン監督独自の残酷さが憎らしい。
舞台となる80年代の台北は、私の想像するカラフルな台湾のそれとは違い、大きなフレームのように映される富士フイルムやNECのネオンが煌々と台北の夜を照らし出し、その夜景は東京と見間違えてしまうようだった。

男女の恋愛は少なからず、誰もが「あの時こうしておけばよかった」のような後悔はつきものだ。
最初から最後まで2人の関係が歯車が狂って行く過程が描かれてはいるのだけも、なぜ2人が付き合うことになっていったのかまでは描かれない。
殺伐とした雰囲気のせいで、私にはこの2人がこのストーリーの始まる前にもうすでに恋人関係が終わっているのに「情」という厄介な鎖が何となく2人を縛り付けていただけようにも見えた。

誰だって現状に満足することは難しいけれど、どうしようも埋められない心を、もし〇〇したら上手く行くかもしれないと、根拠とない希望を作って今の満たされない心をなんとかやり過ごす事は、やがて取り返しのつかない不幸を作り出す可能性だってある。
アジンの曖昧な感情が作品全体に浮遊しているようでモヤモヤさせられるけど、この感じこそ今も昔も変わらず年頃の男女につきまとうリアリティなのかもしれない。

アリョンはとても人がいいから悪い男ではないのだけど、生きるの下手すぎるし、覇気もないから最後まで全く好きになれなかった。
なのに最後に吐いたあんな決定的な言葉だけは多分正しいからとても悔しい。