ろ

台北ストーリーのろのレビュー・感想・評価

台北ストーリー(1985年製作の映画)
5.0


「ビルを見ても、区別がつかない。僕の設計か他人の設計したものか、大差ないね。僕の設計かどうかなんて重要ではない。」


エドワード・ヤン監督の映画を観るのはこれが初めてなのだけれど、なんていうかな、とてもしっくりきました。
ひとつひとつの場面が、こんなにも納得のいくものなのか。
すっと腑に落ちたり、ふっと頭をよぎることもある、すごくすごく好きな映画でした。


幼馴染のカップルが部屋を決めるシーンからはじまる今作。
しかし物語が進むにつれ、海外出張の多い彼と台湾にいる彼女のこころがどんどん離れていくのが分かる。

ひさしぶりの再会。
向かいの道路から声をかける彼・アリョン。
行き交う車は途切れず、なかなか彼のもとに行けない彼女・アジン。
まるで二人の距離感が映像に浮かび上がってきたような最高の場面。


恋人と実家に帰れば「おい、ビール!」
落としたレンゲは拾わず、娘のを横取り。
「結婚はまだか」とせかし、仕事の愚痴を肴に酒を呑む。
「アリョンは父さんに似てきたわ」とこぼす娘に、一拍おいて、「また野菜が値上がりよ」と答える母。漂う諦めに、グッときてしまいます。


「あなたが少年野球のエースだったころから、ずっと見ていたのよ」
「わたし、あなたのところへ行くわ。結婚しましょうよ」
過去のこと、未来のこと(結婚)で、なんとかアリョンの心を掴もうとするふたりの女。
なにかにすがりたいだけの虚しさを見抜くアリョンは「君にとって、相手が僕でも他の誰かでも、そう大差ないはずだ」「“結婚”も“アメリカ”も万能薬じゃない」とキッパリ告げる。


たくさんの車が走りビルが建ちならんでも、人はみな金欠。
フットルースの音楽がかかるクラブで、現実に背を向けるように踊る若者たち。
空しく開閉するエレベーター、踊り場に放り出された荷物。
そして道端に捨てられたテレビの横でひっそりと死んでいく・・・。


「すべてが見えそうな場所でしょ、こっちのことは見えないけど」
死んでもなおすれ違いつづける二人。
それはラストのセリフで、決定的になる。
仕事も恋愛もただ待つだけ。
アジン、君の方がよっぽど決心ができていない(今を生きていない)ように見えるよ。
ろ