カルダモン

サーミの血のカルダモンのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
4.3
スウェーデンのラップランド地方に暮らす先住民族サーミ人を扱った作品。
主人公のエレ・マリャが自らの土地の風習や考え方に疑問を持ち、葛藤を抱えながら外の世界へ出て行く姿が描かれる。

賢さは、自分の置かれた状況に疑問を持てるかどうか。またそれに対応し行動できるかどうか。しかし、名前を変えて新たな土地で暮らしていても、いくら歳を重ねても、自分に流れる血や生まれ育った土地を変えることはできなくて、トナカイの耳に刻んだマーキングのように、彼女は傷を負った耳にサーミを見ている。

葛藤はまだ失われていない血の表れでもあって。新しい土地で自由の空気を吸っていたとしても、彼女の中では、わだかまりや心のしこりが解かれることはなく。ただ、自分自身を見返すという行為は癒しでもあるので、最終的に故郷を訪れたことは救いかな。

自身に向けられる視線と、自身が向ける視線。またどちらにもなれない自分が、時代の変化とともに語られる繊細な映画でした。

先日見たドキュメンタリー番組の中で中国の現状が紹介されていたのですが、ウイグル人が故郷を飛び出し、上海のライブハウスでトークショーをしている姿を見ながら、映画の状況とリンクしてしまって、ウイグル人としての背景を想像せずにはいられませんでした。言いたいことを言える居心地の良さなのか、自由の空気を感じていたのか。どこの地域にも時代にもあることだよな、と。故郷とは何か、血族とは何か、ついつい考えてしまいました。


年末年始はなにかと慌ただしく、なかなか腰を据えて映画を見れませんでしたが、ようやく通常モードへ。SW疲れもあって静かな映画を観たい昨今です。



余談
劇中で体操をするシーンがあるのですが、体育館の壁面にはたくさんの肋木があって、スウェーデンにもあるんだなぁなんて気になって調べてみたところ、なんとスウェーデン発祥のものでした。
ラジオ体操なんかもスウェーデン体操など参考にしてるとか。エレ・マリャちゃんが見よう見まねでやってる体操はどこかラジオ体操ぽいなと思ったので一人合点。