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かぞくへのtetsuのレビュー・感想・評価

かぞくへ(2016年製作の映画)
4.2
『由宇子の天秤』がすさまじく、春本監督作品に興味が湧き、機会があったため、鑑賞。


[あらすじ]

ボクシングジムでトレーナーとして働きながら、恋人・佳織との結婚式を間近に控える男・旭。とある事情から養護施設で共に育った親友・洋人と再会した彼だったが……。


[雑感]

ここ数年に作られたインディーズ映画の中でも、最も見逃せない名作だった。


[感想]

鑑賞前は、ほぼ無名の俳優2人が並ぶポスターヴィジュアルと"ボクシング"という要素に、とっつきづらい印象を受けていたものの、実際は、そのイメージを大幅に覆す、リアルかつ高密度な人間ドラマが展開されて、驚愕。

低予算ながらも、ここまで惹き込まれるヒューマンドラマを描けるのかという衝撃に、終始、打ちのめされる傑作だった。


[ドキュメンタリーのようなリアリティ]

本作では役者の演技力に委ねた長回しの場面が多く、日常のシーンにこそ、ドキュメンタリー映画のようなリアリティがある。(ドキュメンタリーが必ずしもノンフィクションとは言わないが。)

日常に潜む不穏な空気から醸し出される緊張感と、親しい関係が生み出す幸福感。

人々の息づかいを丁寧に描けているからこそ、それらが一気に崩れ去るような瞬間が際立つし、受け手も自分事として捉えることが出来る説得力があるように思った。


[綺麗事でない人間ドラマ]

ここ最近、自戒も含めてだが、常々、自分の物言いや考え方が綺麗事になっていないかと逡巡することが増えた。

それは、コロナ禍によって「まずは一人一人が生き残らないといけない」という風潮に社会が変化しつつあることや、自分にとっても、大学卒業を経て、真剣に"自立"を考えるようになったことがきっかけにある。

そんな中で、本作を鑑賞することが出来たのは、本当に貴重だった。

親や友達にこそ話せないことや、他者への優しさと自分の甘さを履き違えてしまうこと。

一般的には、絵空事を描くことが多い映画だけれど、本作では(出演者の実話を基にした)フィクションの中で、まるで観客である自分に突き刺さるような問題が描かれており、その実直さに心を突き動かされる名作だった。


[終わりに]

『由宇子の天秤』の公開を経て、再評価の兆しが高まる本作。

ソフト化や配信がなく、上映機会も少ないため、今となっては、かなりレアな作品にはなるが、今回の新作上映に際して、各地で再上映が行われるとのこと。

ぜひ、気になった方は、このタイミングで鑑賞してみては……?


参考

観るひとの心を大切に。心を描き、揺さぶる春本雄二郎初監督『かぞくへ』上映支援プロジェクト! - クラウドファンディングのMotionGallery
https://motion-gallery.net/projects/kazoku_e 
(本編の鑑賞前、"オンラインサロン"運営、"俳優ワークショップ"という取り組みのみを聞いていたので、正直、怪しいイメージを抱いていたものの、このページを読むと、その熱意と日本の映画制作の現状には納得。)

松浦慎一郎さん(@Smile092269)からのツイート
https://twitter.com/Smile092269/status/1441900300571267075?s=03
(出演者本人が呟いた実録『かぞくへ』)

上映スケジュール | 新文芸坐
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#l0929
(新文芸坐では、9/29に1日限りのレイトショー上映が決定しているとのこと。)

パルシネマしんこうえん
http://www.palcinema.net/sp/page01/ 
(10/15から『由宇子の天秤』が公開される神戸では、10/21~10/30の期間にパルシネマでモーニング上映も。)
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