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グローリー 消えた腕時計のtdswordsworksのレビュー・感想・評価

グローリー 消えた腕時計(2016年製作の映画)
4.8
映画祭のパンフレットでは官僚批判の映画であるかのように書かれている。もちろん、運輸省の広報責任者や彼女の部下たちの身勝手さを軸にしてはいるけれど、運輸省を批判するジャーナリストだって、単に主人公の国鉄職員を自分の主張のために利用しただけだし、広報責任者の旦那がカーステレオのボリュームを上げてジャズを聞くのだってそう。
そして、そんな自分の身勝手さに、一人を除いてみんな気づかないまま、物語は後味の悪すぎる結末へと向かう。気づかないのは、その身勝手さが自分本位ではなく他人本位だからだ。人間が他の動物より繁栄した理由が、理性によって本能を抑え社会性を獲得したことだとしても、その社会性によってそれぞれの個体が持つことになった立場が、また新たな身勝手さを生み出している。官僚に限らず、社会性を身につけた者は自らに期待される役割を果たすことをまず第一に考えて物事を判断するようになるものであり、それが誤解やすれ違いを引き起こし、発言力の弱い人にその皺寄せがいく。社会システムに潜む問題に鋭く踏み込んだこの映画は、僕に生涯問いを投げかけ続けることになりそう。
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