マヒロ

立ち去った女のマヒロのレビュー・感想・評価

立ち去った女(2016年製作の映画)
4.0
30年もの間殺人罪で投獄されていたホラシアは、ある日突然事件の真相を知る人物の証言により冤罪が認められ釈放される。その証言によると、ホラシアを陥れたのは彼女が別の男と結婚することに嫉妬した元恋人のロドリゴであるということが分かり、ホラシアは復讐のためロドリゴの住む街にやってくる……というお話。

約3時間40分というかなりの長尺だが、ラヴ・ディアス監督は5時間とか10時間の映画を普通に撮る監督らしく、本作はむしろ短い方らしい。

基本的には定点カメラ+長回しの映像の連続で構成されていて、例えば人が部屋の中を移動するだけのシーンなどのカットできるようなゆったりとした時間もあえて映し続ける。それが長尺になった所以だと思うんだけど、それを長ったらしいと思うことはなく、むしろホラシアという女の人生の一幕を本当に覗きこんでいるような共感性を得られる演出で良かった。
長尺がそれほど苦にならなかった理由としてもう一つ、モノクロの画面がどこを切り取ってもめちゃくちゃ格好良いというのがあって、昼の場面では日差しが強いからなのかコントラストがバキバキに効いた街並みや、夜の暗闇の中にポツンと佇む人間を照らす街灯など、白黒を極限に活かした画面作りが素晴らしかった。いかにも良い画を作ってますよ、というこれ見よがしな感じがないのも良いところ。

復讐に向けてロドリゴの動向を伺うホラシアは、その一方で見知らぬ土地で出会った人々に親切に振る舞うという一面も見せ、夜の街でバロット(孵化直前のアヒルの卵を蒸したものらしい……)を売り歩き家族を養う男や、教会に通う浮浪者の少女、道端で倒れていた女装のゲイ男性などと交流を重ねていく。ホラシアはそれぞれの触れ合いで全く違う一面を見せることもあり、聖母のような優しさや友達のような気さくさを見せたと思ったら、とんでもない暴力性を発揮したりもして、簡単には真意が掴めないようになっている。そもそも彼らと仲良くしているのも、ホラシアの本当の良心によるものなのか、ロドリゴの情報を聞き出すために利用しているだけなのかは曖昧なところ。常にカメラは寄り添いつつも、深いところまでは入り込まないドライな目線が徹底されているところも良かった。

フィリピン映画は初めて観たけど、言ってしまえば今作はおばちゃんが4時間近くフラフラ彷徨っているという映画で、こういうのを許容出来るフィリピン映画界の懐の深さに驚いた。映画産業が商業に染まっていない国ならではなのかもしれないが。

(2020.77)
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