茶一郎

ディザスター・アーティストの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.3
 「映画史上最低の映画はどうして出来上がったのか」。最低映画の『市民ケーン』と呼ばれる『The Room』(未)のメイキングと、製作・監督・脚本・主演を務めた謎の人物トミー・ウィソーを描く『ディザスター・アーティスト』は、全ての作り手への賛歌が詰まった男泣きの一本でした。

 ゴールデングローブ、ミュージカル・コメディ部門の主演男優賞を受賞し、アカデミー本線への参戦が確実とされながら、 #metoo運動によって監督・主演を務めたジェームズ・フランコのセクハラが暴露され、アカデミーからは無視、日本ではVODスルーと当然の扱いを受けてしまった本作。
 しかしながら、ジェームズ・フランコの人間性と作り手としての才能はまた別のお話で、元の『The Room』が『市民ケーン』なら、この『ディザスター・アーティスト』はトミー・ウィソー版『8 1/2』、同じオーソン・ウェルズなら『風の向こうへ』。「モノを作る人が何故、モノを作らねばならないのか」を非常に明快なコメディで描いた作品として強い印象を残します。

 何よりも怪物のような見た目のトミー・ウィソーを容姿から完コピし、凄まじくキュートなキャラクターとして主人公トミーを演じたジェームズ・フランコ一つでで本作は勝った。 HA HA HA 彼がその特徴的な笑い方をする度にニヤニヤが止まりません。
 加えて、『ディザスター・アーティスト』はジェームズ・フランコが旧友セス・ローゲン(+一派)と作り続けてきた『スモーキング・ハイ』、『ディス・イズ・ジ・エンド』のようなブロマンス映画の系譜としても捉える事ができます。『僕らのミライへ逆回転』みたいな映画かと思って見ていると、いつしかトミーと親友グレッグ、グレッグの恋人アンバーの三点が作る三角関係の映画にスライドしました。

 男と男のキャッチボール、そしてその三角関係が「君のために映画を作ったのに」という言葉で極大点を迎えます。作り手が自身のために作っていたモノがスクリプトセラピーを越え、多くの観客の心を掴むカルト作『The Room』を作り上げた。最後に上映される『The Room』を見る観客の大爆笑が、『ディザスター・アーティスト』観客としての我々の涙腺を刺激します。
茶一郎

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