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THE BATMAN-ザ・バットマンーのAnima48のレビュー・感想・評価

4.4
すごく疲れた時や余裕がない時って、自分の関心がある事以外は世界は全く味気ないように見える。食事も味がしないようだし、ぐっすり眠りたいのにすぐ起きてしまう。そんな働き出して2年目の頃を思い出した。

バットマンが主人公の映画だった。バットマンム-ビーは、ユニークな悪玉が悪事を起こしその出自や行動原理に焦点が合うことが多くて、バットマンが話の中心になることは案外少なかったように思う、オリジンにかかわることを除けば。完全にバットマン視点からストーリーを味わおうと思ったら、(コミックスを除けば)ゲームが一番という状態が続いていた。今回は若いバットマンの悩み成長する姿と捜査・推理する様子が1人称視点で語られる。コンタクトレンズが記憶装置というのはそれによく沿ったデバイスだったと思う。

いつもの誕生譚を蒸し返すような真似はしない、2年目のバットマンの映画。まだ若く、不安定で、偏執的だった。自分の信念に自信がなくて経験不足からか卓越した強さは得ていない、その代り過剰な暴力に走る。超人でもない小悪党に容赦なく執拗にマウントパンチを打ち続けるバットマンというのは初めてだった。“悪人にとっての恐怖になることで悪を抑える“という思いは信仰じみた狂気と思えるほど。“2年間の夜が私を夜行性の動物に変えた“と言っていたが、その通り怪物だ。駅の真っ暗な影から現れたバットマンや空に現れたバットシグナルに悪人たちが怯える様子がよく出ていた。助けた男からも真剣に怖がられていたけれど、あんな人近くにいたらそれこそ警察が呼ばれてしまう。バットモービルも怪物のようで、どちらかというとマッドマックスの乗り物の様だった。”復讐者だ“と語っていたヤングバットマン、ノーランのバットマンが普通のヒーローに見えてくる。でも中身はマントとマスクをつけた普通の男なので傷つき疲れる。パンチや蹴りをまともに食らい続け弾にもよく当たる、肉を切らせて骨を断つような戦い方が粗削りで若さを感じられた。スーツの頑丈さはシリーズ1だと思う。

初年ではなく2年目なので、ゴードンからの信頼は得ていて現場検証できるくらい関係性はあるけれど警官からは怪しまれ、つまみ出されそうになっていた。現場での検証と推理、そして聞き込みがベースで、バットマンがホームズ、ゴードンがワトソンの探偵物の展開。もうゴードンがロビンみたいだった。何度もアイスバーグラウンジに足を運んだり、市民を巻き込むカーチェイスをしたり。リドラーがだすなぞなぞを解いていき、つぎの劇場犯罪が次のステージに上がることでストーリーが進む。この謎々が難しい。アメリカの謎々は日本と違うのだろうか?正解を得ていくんだけれど、あれはバットマンのことを深く理解しているリドラーがバットマンしか解けない謎々を用意していたようにも思えた。

今回は、ブルースとしてのシーンは少ない、マスクとマントを脱いだ彼は猫背で疲れて病み上がりのようで、日に当たっていないのか青白い。彼はパーティにも表れず、ウェイン社にも関心を持たず会計士とも会わない。ご飯食べれてるのかな?昼間の生活は闇のバットマンに浸食されている。暖かなアルフレッドにも、ついついぶっきらぼうな対応をしてしまっている。ここでのブルースはブルースだからこそ行うことができる悪への対処、例えば会社の経営や政治をつかった社会への影響力の行使・社会貢献という手段を放棄してしまっていて、バットマンという暴力装置を用意することしか頭になかったようだ。

リドラーの予告型連続殺人、それは前の世代が行っている汚職・偽善を告発するための手段だけど、殺人という手段を使わずに会計士の活動を通して告発する手段はあったはずだ。本来は現実的な手段だけれど、政治家とマフィアが癒着して善人と悪人の区別がつかないゴッサムでは難しかったのかもしれない。SNSを使った同志の獲得と非合法な活動を放棄した現実的な手段にこだわってリドラーが活躍したら、有能なヒーローになれたかもと感じてしまう。

そしてこの事件は、バットマンにとって個人的な苦難ともいえるものになっていく。ブルースも知らなかった家族の大切な秘密、バットマンとしての原動力になっていた要素が崩れた時、自分が駆逐しようとしていた悪の領域に自分も半身を置いていたことに気づく。映画開始直後の望遠ショットや監視ショット等を通じてリドラーもバットマンも同じような行動をしてきたことが描かれていて、他人から見たら2人ともがマスクに覆われた狂人で似た者同士のようだ。リドラーからの共闘を持ち掛けられた際、そこに気づいてバットマンは我に返ったのかもしれない。

赤と黒の色調に占められた画面では、雨に濡れ続けているゴッサムの夜道にネオンサインの赤い光が映えている。アイスバーグラウンジの紅いライトの下、悪徳に酔った男たちが集っている、そして日光の下では法の守護者である者たちもここでは、悪に染まって女性を脅し食い物にしていた。そんな犯罪社会への復讐の為にセリーナはスーツを着る、まだキャットウーマンになる途中だけれど。少し長いバットマンとのツーリングはつがいの猫がじゃれあってるようにも見えた。

結局3人とも孤児で、親の残したゴッサムの病巣に苦しみ、そして復讐していた。ゴッサムに雨は降り続いて、一粒一粒が重く感じる。降り続けた雨がやんだ夜明けに、救助に力を入れるバットマン。人助けをすることで健やかな正義の心を手に入れていた。昼間の生活を大切にすることでノアの様に人々を導いてくれることを期待しても良いのかもしれない。もっと続きが見たいと思った。
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