ベイビー

わたしたちのベイビーのレビュー・感想・評価

わたしたち(2016年製作の映画)
4.3
うっ、なんだこのチクリと刺さる感覚は…

それは冒頭の取り取りジャンケンから始まっています。クラスのドッヂボールのチーム分けで、ジャンケンで勝った方から順番に欲しい人を指名していく中、あの最後まで名前を呼ばれず余り者扱いされてしまう感覚って、見ているこっちが辛い気持ちになってしまいます。

その描写だけでこの作品の質感が伝わってくるようでした。最初はまた韓流映画特有の底意地の悪い作品と思って観ていたのですが、話が進むに連れ、これは僕の小学生時代そのものだと気づき始めました。

子供って残酷ですよね。孤独が嫌だからグループを作り、「自分とは合わない」からと言って、変に目立つ子を孤独に追いやります。イジメは大した理由もなく行われ、簡単に人を傷つけ遠ざけます。しかしイジメられている子供は、この地獄の苦しみに理由も分からないまま耐え続けなければなりません。

こんな悪意に満ちたクラスでも、小学4年生のソンにとっては世界そのもの。その世界で独り孤独にさせられて、その孤独の淵でジアを見つけて、友達になって、そしてまた孤独になって…

そんなソンの繊細に心が揺れ動く姿を見ていると、まるで自分の子供の頃を見ているようで、胸のあたりがチクチクと痛くなってくるんです。

物語としては、静かな抑揚の中に些細な出来事が散りばめられている感じです。どちらかと言うと地味なお話です。

それ故にこの作品は素晴らしい。変に話を盛り上げようとか、変に感動させようとする邪な施しをせずに決して飾らず、正しいものを正しく淡々と語り尽くす演出は、ソンの感情全てを余すことなく伝えてくれます。

今作品のユン・ガウン監督といい、「はちどり」のキム・ボラ監督といい、最近の韓国の女性監督の活躍は素晴らしい。僕は今まで韓国作品のどこかゲスい感じが滲み出ているところが苦手だったんですが、この二人の女性監督が作れる作品からは繊細さや優しさが溢れ落ちてくるようで、僕の感性にピッタリ馴染んでくれます。 

普通、こういった内容の作品だと極端に親が無関心だったり、無責任な形で描かれたりして、作品のリアリティが損われたりもしますが、今作はちゃんと大人は大人でしっかり子供を見ていましたし、しっかり子供を愛していたので、ソンのリアルな家庭環境と心の変化が垣間見れ、一層この物語のコンセプトが浮き彫りになっていたように思われます。

そのお母さん役を演じられたのがチャン・へジンさん。「パラサイト」でのちょっと怖目なお母さん役とは違い、今作ではとても優しいお母さんを演じてらっしゃいました。その演技が本当に上手で、この作品がバランス良くまとまっているのもこの母親の存在があってこそだと思います。

そう考えれば、この映画は女性の力で作り上げた作品と言えます。監督の演出といい、ソンやジアといい、ヘンジさんの母親役といい、女性の才能で彩られたとても素敵な作品でした。

最後の爪先に残るホウセンカのマニキュアと少女の心と重ねる場面なんて、絶対男の感性では生まれてこないと思います。

ソンを演じたチェ・スインちゃんといい、この作品は女性の繊細さや感性が溢れている素晴らしい作品でした。
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