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わたしたちの小のレビュー・感想・評価

わたしたち(2016年製作の映画)
4.3
「女の子同士は大変」「女の子同士は面倒くさい」。JKの父である自分が家で良く耳にするこの言葉。

いきなりだけど、本作の女性監督のインタビュー記事からの長めの引用。自分がモヤモヤ考えていたことが端的に語られていて、ちょっと感動した。

<もし男の子の映画だったなら、もっと暴力的な映画になっていたと思います(笑)叩いたり蹴ったりもたくさんするでしょう。喧嘩もこんなに複雑にはならなかったでしょうし、加害者と被害者がもっとはっきり分かれるかもしれないですね。

男女で育てられ方は全く変わってくると思います。男の子は自分なりに表現してもいいし、喧嘩しながら大きくなるんだという考えだとしたら、女の子はそうではありません。女の子は友達を傷つけてはいけないし、おしとやかで良い子でいるべきだと育てられるため、自分の心を素直に表現して葛藤ができた場合に怖がらず乗り越える方法を知らないまま大きくなってしまうようです。

お互いに誤解ができてもちゃんと解くことができず一人で抱え込んだり、他の友達に話すときに陰口や悪口として攻撃的に伝わってしまいます。そのように女の子たちのおしゃべりや遊び方は男の子とは全く違うと思います。

そのような女の子の感情に集中した映画が無かったと思ったのでこの映画を作りました。男の子だったなら全く違う映画になっていたでしょう。

この映画を撮りながら、親や先生が女の子に対しても男の子と同じように教育するべきなんじゃないかと思いました。「大丈夫、もっと正直に言ってみな。もっとぶつかってみな。」そのような言葉を掛けていたら、女の子も葛藤に対して少しは怖がったり緊張したりすることもなかったのではないかと思います。>
(http://movie-cheer.wixsite.com/movie-cheer2015/single-post/2017/10/01/%E5%8F%8B%E3%81%A0%E3%81%A1%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%81%E4%BD%95%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%82%82%E3%80%82%E9%9F%93%E5%9B%BD%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%80%8E%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%80%8F%E3%83%A6%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%82%A6%E3%83%B3%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%EF%BC%81)

理解してもらいたくてもなかなか理解してもらえない女の子。それは言いたいことを我慢し、自分の気持ちを内にしまい込むから。じゃあ言えばいいのにと思うけれど、アホな男の子とは育ちが違う。

アホな男の子の成れの果てであるオジサンにはこの映画、女の子同士の面倒くさい関係を描いているだけにしか見えないかというとそうではない。

学校でいつもひとりぼっちだった11歳の小学生の少女ソンと、転校生のジア。友情、嫉妬、裏切り、怒り…。和解の糸口を見出すことは不可能と思われるくらいこじれる2人の関係。

本当は泣き叫びたいくらい切ない思いをしているのに、黙ってじっとこらえている女の子の気持ちを、表情やしぐさ、アクセサリーなどで描いていく。この表現が胸を打つ。演技と忘れて見入ってしまう。

そしてラストに訪れる劇的な瞬間。それは些細だけれど、女の子にしか言えないであろう、世界をひっくり返す力を持った言葉によってもたらされる。このラストに感動だけではない、奥深さを感じてしまう。

はじめ、ソンとジアは互いに「わたし」だと主張する、「あなたとわたしは違う」と主張する。そうすることによって孤独から逃れようとする。いわば孤独の押し付け合い、終わりのない負の繰り返し。

でも「わたし」ではなく「わたしたち」ならどうだろう? 自分の気持ちを正直に伝え、あなたはわたし、わたしはあなたの「わたしたち」なら。それに気付くことができるのは、学級の中核から“周辺化された”ソンとジアだけかもしれない。

学級の中核にいるためには「わたし」を主張し続けなければならないけれど、それは誰かに取って代わられる不安が常に付きまとい、いつもイライラしてしまう。そんな「わたし」でいるよりも「わたしたち」の方が楽しいじゃない、不安でイライラするよりも、楽しいほうがイイじゃない。

プライド優先で、一人でいるのがカッコイイと思い込んでしまいがちな男には、到達が難しいであろうこの境地。子どもを産む女、覚悟して引き受けることを身をもって知っている女、だから黙って主張しないのかもしれないけれど、だから女同士は面倒くさいかもしれないけれど、世界を変えることができるのは「わたしたち」女なのかもしれない。

じゃあ男ってどうなのよと思うけれど、ソンが「わたしたち」に気づくきっかけを与えたのは、まだ「ぼくたち」の世界にいる彼女の弟であることに、監督の男に対する優しさを勝手に感じることにしたい。

●物語(50%×4.0):2.00
・感想を考えだしたら「わたしたち」って上手いタイトルだなあ、と。この物語が女性監督による女の子の物語であることは、『サーミの血』同様に必然なのかも。

●演技、演出(30%×5.0):1.50
・子どもの演技が凄すぎる。演技が上手いというより、とても自然。これは監督の手腕だろう。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・冒頭のドッジボールのシーンからつかまれる。
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