ローズバッド

わたしたちのローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

わたしたち(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ユン・ガウン監督に要注目、まちがいなく世界的な映画作家になる。
長編デビュー作とは思えない、とんでもない才能と実力に驚かされた。
是枝裕和監督から影響を受けたらしいが、はっきり言って「子役を輝かせる演出力」だけでなく、映画作家の総合力として、既に上回っているかもしれない。
おそるべき韓国映画界の新星。

物語としては、突飛な方向に行ったりせず、ジワジワと起こるべくして嫌な展開が起こる感じ。
ベタといえばベタだが、韓国映画らしい「感情を深く掘る」脚本術なのだろう。
今作の「子供のイジメ」という題材に関しては、適切な語り口だと思うが、僕の希望としては、ユン・ガウン監督にはヨーロッパに行って、『ELLE』のような大人の「感情の不可思議さ」を描くことに挑戦してみてほしい。
人間観察力と、それを脚本と演出で描ききる作家力が、ハンパじゃないのは実証済みなので、大人の物語でも傑作をものにするだろう。

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とにかく、キャスティングが大成功。
主演のソン役チェ・スインちゃんを選び出した慧眼、監督の人間を見抜く力。
そして、その魅力を引き出す演出力。
映画の5割くらいはソンのアップだと思うが、これほどの時間、顔アップで画面がもつ役者は世界中いないんじゃないか、ずーーーっと観てられる顔。
ジアや他の子も良いけど、ソンが圧倒的なので一人勝ちかなと思っていたら、弟ユンが最後にとんでもない演技(?)を見せる。
僕の今年の主演女優賞と助演男優賞は決定かも。
例えば『アウトレイジ』など、役者の“イイ顔”を観るのは映画の醍醐味だが、本作はズバ抜けた“イイ顔”の傑作だ。

撮影が、優しくて強い。
もしかして、スタンダードのレンズ一種類しか使ってないんじゃないか?と思う。
シンプルだけど硬くない構図。
ボケと、カラフルだがくすんだ色彩がもたらす、色鉛筆のような柔らかな印象。
無用なカメラの移動や、クレーンの俯瞰や、広角での客観などはない。
徹底してソンの視点・立場・経験からカメラは離れない。
カメラの高さもソンの目線。
被写界深度の浅い画は、子供たちの表情の繊細な変化だけにフォーカスする。

ライティングも印象的。
窓辺に座るソンとジアの後姿に注ぐ夕陽のあたたかさ。
それがソンひとりになった時の寂しさ。
病室の空になったベッドを見つめる父にも夕陽が切なく陰を落とす。

編集はすでに妙技。
移動などの説明抜きで場面転換して、観客に少し「?」と思わせてから、わずかな会話などで展開を理解させる。
そして「ドッジボールの組決め」表情アップのながーーいカットで、始まり終わるという円環構造。
劇伴音楽も1ヶ所しか使っていなかったはず。
すでに「映画の文体」「語りのリズム」を完全に持っている。

マニキュアというモチーフ使いが巧み。
ピンクに染めるが剥げてきて…水色を塗るとまだらに混ざる…。
酒瓶で指を切りズタズタ…最後の最後にわずかにピンク色が残っている。
誰にでも解る、心の変化のメタファーとして用いるが、あざとさより素直に魅力を感じる。
面白いのは、ソン自身もこのメタファーを理解している事。
ピンクと水色で編んだブレスレットを2人に渡そうとするが、教室では最悪の仕打ちが待っているという悲劇の展開。

このように、演技と映画の各技術が素晴らしいため、物語を超えて、画の力が非常に心に響く。
ソンとジアが枕を並べて寝る暗い部屋、海に行こうとゆびきりしたツメに巻いたラップが、カサカサ音を立てる。
ラストカットの、画面の端と端に立ち尽くす、ソンとジア。
理屈抜きに、体が震えて唇を噛みしめずにはいられない力強いカットたち。
きっと、簡素な機材で撮影していると思うが、率直で実直なアプローチをすれば、CGとかクレーンとか金の掛かるものは必要なくて、本当に胸を打つ映像を創り出すことができるという勇気をくれる。

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心優しいお母さんでも、宗教に熱心なおばあちゃんでも、人生の苦味を知るお父さんでも、そして子供でもなく、「幼児」が一番大切な事を知っている、というラストは珍しいのではないか。
「子供に教わる」物語は星の数ほどあるだろうが、「幼児に教わる」というのは、あまり思い当たらない。
幼児特有の腕をクネクネ動かしながら、金言を吐く、弟ソンの生意気な表情が忘れられない。

「じゃあ、いつあそぶの?」