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苦い銭のYuのレビュー・感想・評価

苦い銭(2016年製作の映画)
4.1

中国の農村から出稼ぎにくる街・浙江省湖州。この街の80%は出稼ぎ労働者で占められていて、経済大国となった今でも、一元の金に一喜一憂する人々が必死に生きている。

お金は人を、
幸せにしているのだろうか
不幸にしているのだろうか

遥か昔、自給自足し物々交換で生活していた時代に、より多くの人と、より効率的に物々交換できるよう誕生した道具が”お金=通貨”だ。

お金は、交換することができる以外にも誰にでも公平平等に、価値の尺度となり、価値を変えず蓄積保存できることからとても貴重なものとなり、本来、物を得るための道具にすぎなかったのに、人間はお金自体を稼ぐことを重要な目的にしていく。

そして、
価値バランスを保つためある程度絶対量が決まっているお金は、人々の間で取り合うことになり、必然として貧富の差を生むことになる。

皮肉なことに人間は、便利に生きていこうと自らが生み出したお金自体によって、強者と弱者に選別されているのだ。
世の中は、そんな”お金”に振り回される人間たちで溢れかえっている。

ワン・ビンは、少しでも生活を楽にしようと出稼ぎをする中国の労働者たちを、約3年間かけて撮り続けた。

朝から夜中までの長時間労働が割に合わないと根性無く帰る若者。
金になる店を自分だけのものにしようと取っ組み合いの喧嘩をする夫婦。
マルチ商法に手を出せば楽な暮らしが待ってると犯罪に手を染めるかどうか真剣に悩む男女。
社長との金銭交渉でなんとか多く勝ち取るも1ヶ月の報酬はわずか1700元強(3万円弱)という女性。

稼いでは博打に手を出し、酒に飲まれて職場で危なっかしくハサミを扱う男。
みんな狭い部屋でゴロ寝し、
いつもと変わらない殺伐とした景色の前で先の見えない閉塞感を抱きながら立ち尽くしている。

薄利多売が横行する経済。
安いものを売るために、
安く原価設定され
安い賃金で働かされる労働者たち。
沢山作らなければ儲からないから労働量は増えるばかり。
どこかの誰かの利益のために、実際に給料が支払われない労働者も沢山いるという。
そんな苦い銭だとしても、生きるためには働かなければならない。
いつか、お金を頼らずに生きることができる何かを人類が作り出す日まで。
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