エクストリームマン

魔法少女リリカルなのは Reflectionのエクストリームマンのレビュー・感想・評価

2.6
改めて、浮き彫りになる奇妙さ。元々のTVシリーズにあった歪さ(それが本作と他とを峻別する“個性”でもあったわけだ)が、映画という短距離走チックなメディア、というか表現形式に移ることで濃縮還元されて爆発している。そして、予め前後編であることを告げないのはダメだよな……

滅びかけている惑星と病に倒れた父を救うため、異次元の世界=地球へやってきたキリエ・フローリアン(佐藤聡美)と、彼女を止めるために追ってきた姉のアミティエ・フローリアン(戸松遥)が齎す騒動を、最強の官憲たるなのは、フェエイト、はやて他諸々が対処しようとするが……というストーリー。まぁ、シリーズ的にはいつものやつ、である。どのシリーズでも、主人公側と敵対する側は決定的なところで利害が対立しているように見えるものの、実は敵側は「本当はそうしたくないけど、そうせざるをえなくなった」ことによって泣く泣く(主人公側から見た)悪行を実行しているという構図。そして、主人公たちとフロントで敵対しているキャラクターの背後にはそれを強いている存在(人物あるいは無人格の仕組み)が控えていて、最終的には敵側を「救う」ために主人公たちは背後に控える方を叩き潰す。そして、背後に控えている存在の軛が外れた敵側は、そもそも主人公たちと価値観を共有しているので、争う理由も敵対する理由もなくなり、一瞬で主人公たちと同化する=主人公の一部になる。この世界には決定的に相容れない他者は存在しないのだ。そういう意味で、TVシリーズ1作目の「背後に控える方」だったプレシア・テスタロッサは極例外的で、世界観に未だゆらぎがあったということなのだろう。

シリーズ2作目では、1作目でフロントで敵対していたフェイト・テスタロッサが主人公=高町なのはの仲間となり、3作目から仲間になる「闇の書の主と守護騎士たち」がフロントで敵対するキャラクターとして登場する。以下繰り返し。主人公と敵役やライバルが裏表の関係であることは定石だし、同質であるが故に敵対しているという構図はよくあるし、それ自体は何も悪いことではない。ただ、シリーズが進むにつれて明らかになったのは、この世界で起こりうる「事件」は、基本的にワタシA vs ワタシBなのだ。そういう意味で、今回の副題でもある Reflection は常に起きている。乱反射だ。そういえば、今回主人公たち3人と対になる敵側のキャラクターが用意されていたが、物語にメインで関わってくるわけではないので、召喚していたロボット共々不要だったなと。どうもシリーズの製作者たちは思想や立場の異なったキャラクターを同時に複数動かすことができないらしく、まず善悪(というか、なのは側かそれ以外)2つに割ったグループの中で、口調や態度でキャラクター分けを行うに終始している。そして、悪の側として設定されたグループ内には階層構造があり、フロントの悪役<フロントの背後に控える悪<フロントの背後に控える悪の背後に控える悪のような形で、大抵は階層の頂点が無条件の悪(システム)であって、最終的にまぁ壊すしかないかと「救い」から容易にパージできるものが据えられている。

改めて、あの世界=ミッドチルダ帝国の治世が次元の彼方まで及ぶ世界を見ると、帝国主義と官僚制のコンボの強力さを思い知らされる。次元管理法(名称うろ覚え)なるものがさらっと出てくるが、次元を越えた世界にまで及ぶ「法」とは一体何によって立法され、どのような理念の下で運用され、誰によって執行されうるものなのだろうか。そして、その法は何によって効力が裏打ちされているのだろうか。執行については簡単で、主人公たちがまさにソレであろう。彼女たちは言わばミッドチルダの尖兵であり、法の執行者であり、また強力無比な兵科そのものだ。処刑人も兼ねている気がする。恐ろしいのは、彼女たち(特に高町なのは)が自身の行動原理や道徳観に微塵も疑念を持っていない(ようにしか見えない)ところだ。異世界から切迫した様子の渡航者が来た→まずは次元管理局でオハナシを聞かせて?(魔法で殴りながら)。これである。まぁ、疑念を持つ云々以前に、彼女たちは基本的に役所の窓口のような対応しかしない。bot みたいでこえーな。それもシリーズ伝統なので、別に何を今更、ということではあるのだが。本作も順当にそういう感じであった。

細部の詰めがことごとく甘いので、無限に気になることが出てくるのも本作/本シリーズの特徴な気がする。そもそも魔法からして、定義もルールも曖昧で、各キャラクターの描き分けはなく(スクリプトでも画でも描き分けられていないというのはある意味画期的。映像なのに!)、世界観もぼんやりしている。あの世界、東京とか江戸川区とかあったんだ。

不意打ち前後編構成もたいがい卑怯だと思うけど、前後編にするにしても切りどころがおかしかったのも気になるなぁ。イリス覚醒(平成ガメラじゃない)時点とかで切ればよかったのに。その後見せたことで、後編の最後までの流れがだいたいわかってしまった。わかったところでどうということはないし、どこで切っても後編どんな感じかの予想はやっぱりついたと思うけど。それにしても。

余談だけど、『パシフィック・リム』とか『トランスフォーマー』とかアベンジャーズっぽい敵とか、臆面もなく出してたよね。