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ダイアモンド・アイランドのなやらのレビュー・感想・評価

ダイアモンド・アイランド(2016年製作の映画)
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舞台はカンボジアの急開発地区。主人公は青春を捧げてそこでの労働に勤しむ出稼ぎの若者たち。富裕層が増え、国民の生活レベルが上がる一方、急成長の機運に取り残された貧しい若者たち。彼らの行き場のない閉塞感は十二分に伝わってくる。主演俳優も元現地のタクシードライバーだというし、きっとリアルなのだろうが、問題はその主演俳優である。彼が余りにも辛気臭い。表情にとぼしく、常に物憂げで、ぼそぼそとしか話さない。もはやブレッソンばりの空っぽ演技であるが、それがどうも合わず、見ていて本当に苦しかった。

しかしカメラはそんな彼ばかりに興味があるようで、主人公の虚ろな表情で終わる投げやりカットを連発する一方、発展と荒廃が混在した不思議なロケーションや、歪で魅力的な街の風景はあまりフィーチャーされない。

果てには終盤、夜にバイクで疾走するシーンなど、彼の顔だけが執拗に映され、背景はボカされてしまう始末……もう、その辛気臭い顔は分かったから、カンボジアの街を見せて欲しい……(泣) 同じようにバイクで集団疾走するエドワード・ヤンの『カップルズ』は、素晴らしい夜景を見せてくれましたよ!

あと、主人公とヒロインが夜中、外で雪を眺めるシーン。遠景で撮ればさぞ美しくなりそうなものを、ヘンテコな雪のCGで画面をマスクし、モノローグのみで処理してしまう謎演出は非常にもったいなく感じたし……それより前、河原でヒロインが主人公に話を聞かせる場面でも、カメラが道路へパンするのはいいのだが、その途中でピントがボケてしまっている有り様……もどかしい!

登場人物どうしの会話シーンの構図も、正面で向き合った様を横から撮るだけで、最後まで変化がなく終始単調!

その他の場面でも、演出への意識が薄い部分が目立ち、画面づくりが疎かになっている様に感じられ、総じてあまり楽しめませんでした……。

ただ、主人公とヒロインのキスシーンはすばらしかった。彼が友人から教わったテクでグイと迫るも、肝心のキスにはパッと移行出来ず、顔を近づけたまま間が空いちゃう(そして結局女の子にリードされちゃう)あの感じ!愛おしい!
タバコのシーンは色調が映えていてバッチリ。それこそエドワード・ヤン的な冴えがある瞬間でした。
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