ベビーパウダー山崎

あなた自身とあなたのことのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

あなた自身とあなたのこと(2016年製作の映画)
3.5
何度か見直して映画を解体して理解したが、これもまた、孤独をごまかすために嘘と虚構で己の人生を着飾る、どうしようもなく寂しい女性を描いた映画だった。ホン・サンスが描く「こうなれば良いのに」的な夢、幻影のくだり、男性は夢と現実を分けたうえで楽観的だが、女性はその夢に現実が侵食されているから深刻で、だからこそその「狂いつつある姿」にグッときたりもする。
そして、毎回ホン・サンスは自分の話しかしていないと俺は思っているので、本作もこの時期のホン・サンスのリアルが色濃く反映されているのではないかと邪推している。死にそうな母親についての会話からはじまり、お互い諸々失敗した過去の関係性をすべてリセットして愛し合おうと、ありのままの君を受け入れるし、一生を君への愛に捧げたいんだとおそらく不倫中だったキム・ミニへの(ずいぶん勝手な)ラブコール。だからこそホン・サンスにしては珍しくハッピーエンドな閉じ方をしているのではないかと。ヤバい作家ですね。自分の人生をさりげなく表現(芸術)に切り売りしていく、繊細でありながら図太い、この気持ち悪さと覚悟が優れた表現者の証。