せーじ

blank13のせーじのレビュー・感想・評価

blank13(2017年製作の映画)
3.6
シネマイクスピアリで鑑賞。
最終日の最終回に滑り込みだった。

惜しい…
やりたい事は理解出来るのだけれど、それがあまり上手くいってない。

どういう事なのかと言うと、本作は中盤を境に物語のテンションが若干変わるのだけれど、テンションを変えることだけ、要は笑わせようとすることだけに注力してしまっていて、肝心の物語全体のつくりが雑なままなのだ。
例えるなら、前半で蒔いた種を後半実をならせて収穫しなくてはならないところを、実が少なかったので、後出しでどこからかで取り寄せた実を混ぜて提供してしまっている…みたいな。
それで「どや?」と言われても、観客に突きつけられた"ブランク"は埋まらない。

もちろん仕方がない部分はある。
物語上大幅に時制を飛ばしていることが前提になっているストーリー構造なので、"知らなかった事実"が後出し気味になってしまうのは避けられないだろう。
けれども、それらが全て露見したところで整理をしてみても、並べた事実に対して、主人公達のリアクションにはまだまだ全然足りていなかったのではないだろうか…と思ってしまう。「えっ、怒ってたんじゃないの?それで感極まって退出しちゃうの?」とか「ええっ、これだけで言葉を詰まらせちゃうの?」とか。
個々のエピソードの掘り下げや"知らなかった事実"同士が有機的に絡み合っていた…等の、そういう脚本上のブラッシュアップは、絶対に必要だったはずだろう。
主人公達のこれまで境遇や仕打ちとその結果に対して、"ブランク"そのものの釣り合いがしょぼ過ぎて全くとれていないというのは、こういう題材を描くにあたって致命的なことなのではないだろうか。

また、ところどころ演出が詰められていなくて、不自然に見えてしまっていたのもちょっと気になってしまった。
本作は、なるべくセリフで語らずに「映画的」に演出を成そうとしている作品なのだけれども、意図的にそうしようとする姿勢がちょっと強く出すぎているように思えた(例えば二つの葬儀の対比とか)。
冒頭の字幕も、あれでは機能していないので必要ないし、ラストシーンで主人公がこちらを向くのも要らないと思う。僧侶が葬式の司会をするというのもちょっと違和感があるし、ああいう対比をさせるなら、お寺ではなく斎場やセレモニーホールとかの方がよかったんじゃないか…とも思うし。自分だったらキャッチボールをやらせるのなら川辺ではなくアパート前とか、飲み屋街の道路でやらせるだろうな…とか、そもそも葬儀の参列者達はどうやって知ったのか…などなど。つくり手がやりたいことは伝わるし分かるのだけれども、もう一歩どこかが足りない、惜しいのだ。

前半のヒューマンドラマ的な描写がかなり丁寧で見ごたえがあっただけに、"収穫"がうまくいってなくて(というよりも耕しは丁寧なのに種まきがうまくいってなくて)勿体ないなぁと感じてしまいました。
ただ、監督の次回作は観てみたいです。
せーじ

せーじ